2016年2月6日土曜日

銘柄を明かさない理由R33 Nobody rings a bell

第33話 Nobody rings a bell

ウォール街には以下の格言がある。
Plan your trades. Trade your plan.
トレードをプランし、そのプランでトレードしろという意味である。
思いつきでトレードしても、うまくはいかないという戒めである。

まだだ、まだ騰がるんじゃない、そうだ、その調子で下がり続けろ。
2人の無敗の個人投資家は、そのときを待ち構えていた。
保有株の株価が買値まで下がったときに、追加資金を投入し買い増す。
やがて株価が上昇したときに、再度、元本回収の売りをする。

ウォール街には以下の格言もある。
Nobody rings a bell at the market bottom.
株価が底打ちしたときに、ベルを鳴らしてくれる人などいないという意味である。
相場が底をつける瞬間など、誰にもわからないという教えである。

2人の無敗の個人投資家にとって、保有株が買値を下回ったときが買いの合図だった。
天使の笑顔をもつ男から、いつしか笑顔が消えた。
一昨年、元本を引き上げた男が取引口座に資金移動した日、そのときがやってきた。
2人の無敗の個人投資家の保有株の取引終値が、買値を下回ったのである。

買値に戻ったら買うという点は同じだったが、2人の買い方は異なっていた。
天使の笑顔をもつ男は考えていた。
買値になったから、すぐに反転するとは限らない。
下がり続けて反転、再び、買値に戻ってきたときに全力買いすると決めていた。

一昨年、元本を引き上げた男の考えは異なっていた。
いかに底値に近い株価で仕込めるかに、今後のリターンがかかっている。
下落相場では、恐怖にかられた売りで、あり得ない株価になることが往々にしてある。
長期的には買いだが、これからは短期的に買いかを見極める。

江戸時代に酒田五法を考案した本間宋久という相場師がいた。
彼の「宋久翁秘録」に、下記の相場格言がある。
「売り買いとも今日よりほか商い場なしと進み立つとき、三日待つべし」
売りや買いで心がはやりたつとき、三日待て、という意味である。

男は過去の経験から、数回に分けて仕込むことを決めていた。
しかも毎回、買いだと思ってから、3営業日待つことも決めていた。
3営業日後に反転の兆しが見えなければ、更に3営業日待つ。
長期戦になるかもしれないが、必ず底値で拾ってやる、男は決意した。