2016年2月17日水曜日

銘柄を明かさない理由R39 紅蓮の弓矢

第39話 紅蓮の弓矢

朝刊の株式欄を見て、証券会社の会長である男は思った。
相場底打ちのシグナルだ、あと2つのシグナルが出れば、いよいよ底打ちだ。
相場の底打ちには3つのシグナルがある、男が相場から教わったことだった。
朝刊の株式欄は、大半の株が年初来安値になったことを伝えていた。

シグナルが出た数日後、ついに来た、一昨年、元本を引き上げた男は思った。
男が3営業日の値動きをみていた株が、ついに反転の兆しをみせたのである。
翌朝、男は指値で発注すると、PCを閉じて出勤の身支度を始めた。
身支度をしながら男は思った、あの若い男はどうしているだろうかと。

当初、天使の笑顔をもつ男は、買値に戻ってから全力買いすると決めていた。
しかし、先日、あるブログの管理人に会ってから、考えが変わっていた。
「下落相場では3営業日待つことだ、3営業日待って反転の兆しが見えたら買いだよ」
天使の笑顔をもつ男は、定食屋での男の言葉に買値より下の株価で買うと決めていた。

男が指値で発注した日、天使の笑顔をもつ男も買いを入れると決めていた。
「自分が世界で一番、偉いと思うことだ、無敗の極意はそこにある」
天使の笑顔をもつ男の頭に、男の数々の助言が甦ってきた。
絶対に負けない、天使の笑顔をもつ男の顔から笑みが消えた。

早朝のアルカディアで、創設者の社員はシステムを起動し、あることを確認していた。
ついに来たか、それはある無敗の個人投資家の買い注文だった。
通勤中のアルカディアメンバーに向けて、社長室秘書から召集メールが発信された。
「始業前にアルカディアへお集まりください」

始業時間になり、アルカディアでは朝のミーティングが行われていた。
社内で無敗のクイーンと呼ばれている創設者の社員がメンバーにいう。
「お前たちは選ばれし者だ、自分たちが社内、業界、いや世界で一番、偉いと思え。
お前たちに勝てる奴など、この世に存在しない、本日中に必ず目標を達成しろ」

東京証券取引所の取引開始時間まで、残り数分だった。
小柄な小動物を連想させる女性社員は、席に着くとインカムを装着した。
インカムは主に連絡に使われるが、連絡がないときはBGMを流せるようになっている。
連絡があるとBGMが途切れる、旅客機の無料放送みたいな仕組みである。

小柄な小動物を連想させる女性社員は、BGMをどの曲にするか迷っていた。
どの曲にしようかな、う~ん、やっぱり、今日はこれね。
女性が選んだのは、人類が巨人と戦うアニメの主題歌だった。
やがて取引時間となり、アルカディアにとって久々の買いのトレードが始まった。