第43話 美しき残酷な世界(前編)
女の子の父親は、かって証券会社に勤務していた。
父親は優しく温厚な人だった。
休みの日には、家族をよく遊びに連れて行ってくれた。
潮干狩りに、海水浴、テーマパーク、年に数回の海外旅行。
休み明け、クラスメイトに休みの日にどこへいったのかと聞かれる。
女の子が休みの日のことを話すと、皆から羨ましがられた。
女の子は一人っ子で、両親の愛情を目一杯、受けていた。
その頃は幸せな毎日で、家族には笑顔が絶えなかった。
ある夜、トイレに行きたくなり起きた女の子に話し声が聞こえてきた。
リビングには明かりが点いていた。
父と母は起きているらしい。
父が普段、話さない深刻な口調で話していた。
「まさか、会社が破綻するとは」、父の声が聞こえた。
母のすすり泣きが聞こえた。
「大丈夫だ、安心しろ、何とかなるさ」、母を慰める父の声が聞こえた。
カイシャがハタン、女の子には、それが何を意味するのかわからなかった。
平日に女の子が朝食をとる時間に、父がいることはなかった。
ところが、翌日から朝食の時間に父がいるようになった。
「おはよう、今朝はママがご馳走を作ってくれているぞ」
父はそういい、笑顔で女の子に挨拶した。
「パパ、今日はお休みなの」、女の子は聞いた。
「休みじゃないよ、お仕事へいく時間が遅くなっただけだよ」、父は笑って答えた。
「ふ~ん、そうなんだ、一緒に朝ゴハン食べれてよかったね」女の子は無邪気に答えた。
不思議なことに、そのとき母がどのように2人の会話を聞いていたのか覚えていない。
1年後、両親は離婚し、女の子は母に引き取られた。
女性には、あまりにも突然の出来事だった。
父は2人に自宅を残してくれたが、ローンを返せない母は自宅を売却した。
狭いアパートの一室で、母との二人暮らしが始まった。
やがて女の子は、学校でいじめられるようになった。
男子、女子問わず、陰湿ないじめが続いた。
だが、女の子はいじめを受けていることを、母にも先生にも相談できなかった。
女の子は思った、皆から羨ましがれるようなことをしてきた自分が悪いんだと。