2016年3月1日火曜日

銘柄を明かさない理由R44 美しき残酷な世界(中編)

第44話 美しき残酷な世界(中編)

男子、女子問わず、陰湿ないじめが続いた。
女の子はいじめを受けていることを、母にも先生にも相談できなかった。
皆から羨ましがられるようなことをしてきた自分が悪いんだ。
学校帰りに川の土手に座り、陽が落ちるまで川面を見つめて過ごす日が続いた。

また、今日もいる、数日前、その女の子に気づいた男は思った。
学校で何かあったのか、男は心配になった。
翌日、土手に座る女の子に1人の男が声をかけた。
「なぜ、毎日、こんなところにいる、聞いてやるから理由をいえ」

女の子が振り向くと、コートを着た大きな男が立っていた。
男は女の子の横に座って、話し出すのを待った。
誰でもいい、話を聞いて欲しい、女の子は男に話し始めた。
話し終えた女の子に、男はいった。

「お前は何も悪くない、悪いのはいじめる奴らと、それに気づかない学校だ。
なぜ、悪いことをしていない者が、残酷な仕打ちを受けるのか。
学校は俺に任せろ、お前はいじめた奴らに立ち向かえ」
「そんなことしたら、ますますいじめられる」、女の子は首を横にふった。

「では、この先もいじめられるままでいいのか」、男は優しい口調でたずねた。
「イヤだ、絶対にイヤだ、でも、どうすればいいのかわからない」、女の子が答える。
男は、いじめた奴らに立ち向かう方法を話し出した。
最後に男はいった、「決行は2日後だ」

翌日、下校する生徒たちは、帰り道で男たちから封筒を渡された。
ある生徒は商店街の中で、ある生徒は駅前で。
男たちは「学校から保護者への連絡を渡すの忘れていた」といい、封筒を渡した。
こんな男の人、学校にいたっけ、不思議に思いながらも、生徒たちは封筒を持ち帰った。

翌朝、女の子が通う学校に1人の大柄な男がやってきた。
「校長に至急、お伝えしたいことがある」と男はいった。
校門の警備員が身分提示を求めると、男は名刺を渡した。
「証券会社の社長様でいらっしゃいますか」、初老の警備員は校長へ来客だと伝えた。

応接室に通された男の前に、校長と教頭らしき男が現れた。
名刺交換を終えると、男はいった、「この学校のいじめを無くしていただきたい」
教頭がいう、「ご子息が本校にいらっしゃるのでしょうか」
「いない、だが、いじめがあると聞いた以上、放ってはおけないだろう」