2016年3月26日土曜日

銘柄を明かさない理由R51 嗤う男(後編)

第51話 嗤う男(後編)

あるビルの一室、照明の照度を落としてあるのか、部屋の中は薄暗い。
部屋の中には1人の男がいた。
ある男からのメールを待っている間、男は過去を回想していた。
男は一流大学を卒業後、大手証券会社に入社した。

同期の中でトップクラスの成績をたたき出す男に、ライバルは1人しかいなかった。
その男は自分とは正反対の男だった。
自分の地べたを這いずり回るような仕事に比べ、その男の仕事は洗練されていた。
成績は常にトップクラスで、社内一の美人と噂された女性社員と社内結婚した。

ある日、2人が勤務していた証券会社が破綻した。
テレビでは、社長が号泣しながら社員は悪くないといっていた。
当たり前だ、社員は悪くない、悪いのはお前たちだ。
男は冷めた目でテレビを見ていたことを覚えている。

その後、外資系の証券会社に入社した男は、死に物狂いで働いた。
死に物狂いで働いた甲斐があり、男はその証券会社で取締役にまで上り詰めた。
ある日、破綻した証券会社の元社員たちの集まりがあった。
男には自分が一番、成功しているという自信があった。

集まりには、ライバルのあの男も来ていた。
順番に近況報告をすることになり、ライバルのあの男の順番になった。
「お久しぶりです、会社に見捨てられ、妻にも見捨てられましたが、何とか生きています」
会場から、くすくすと笑いが起きた。

「いろいろありましたが、ある方とご縁があり、今は証券会社の社長をしています。
会社を破綻させないよう、日々、忙しい日々を送っています。
バツイチですので、興味のある方は、後で連絡先を交換させてくださいね」
会場の笑いの中、自分は取締役なのに、奴は社長になったのか、男は思った。

所詮、自分はあの男には敵わないのか。
いや、そんなことはない、奴はたまたま運がよかっただけだ。
外資系はドライだ、ライバルを蹴落とすためにはあらゆる手段を使う。
会社は違えど、奴は自分にとって永遠のライバルだ。

そのとき、ノートPCが1通のメールの着信を知らせた。
ある男に依頼していたモノが手に入ったことを知らせるメールだった。
メールには個人投資家たちが、奴の証券会社へログインする際の情報が記されていた。
真の勝者は誰なのか思い知らせてやる、男は嗤った。