2016年3月28日月曜日

銘柄を明かさない理由R52 女王の依頼

第52話 女王の依頼

取締役会での報告を終えた情報システムの男は、自席に戻り考えていた。
アルカディアの女性社員は、何の問題もないといった。
だが、自分にはわかる、早く手を打たないと大変なことになる。
そのとき、アルカディアを創設した女性社員が近づいてくるのが見えた。

「ログイン情報の流出を防ぐことは不可能なのか」、女性社員がたずねる。
「不可能だ」、男が答える。
「なら、あるシステムを作ってもらいたい」、女性社員がいった。
そのあと、女性社員はシステムの内容を男に話し始めた。

「どれくらいでできる」、女性社員がたずねた。
「そうだな、2日あればできると思う」、男は答えた。
「じゃあ、頼んだ」、立ち去ろうとする女性社員に男が声をかけた。
「気をつけろよ」、女性社員が振り向きいった、「何にだ」

「このアクセスはあくまでも、何かの目的を達成するための手段だ。
間違いなく、このアクセスは敵の攻撃の前兆だ」
「なぜ、わかる」、女性社員がたずねた。
一瞬の間をおいて男は答えた、「経験からくる勘ですよ」

女性社員が立ち去ったあと、男は心の中でいった。
攻撃を受けた経験ではなく、攻撃した経験からくる勘ですよ。
男は大学生の頃、大手企業のサーバーに不正アクセスしていたハッカーだった。
男は不正アクセスで得た情報を、自分が立ち上げた会員制のサイトに書き込んでいた。

サイト上には、男を賞賛する書き込みが相次いだ。
男はヒーロー気取りだった。
攻撃を防ぐことができない奴らが悪い。
悔しかったら、俺を止めてみろ。

ある日、2階の自室にいると、母親が誰かと言い争っている声が聞こえた。
「うちの息子に限って、そんなことをする筈ありません」
しばらくして部屋のドアが乱暴に開けられ、複数の男が土足で部屋に入ってきた。
「君のしていることについて話を聞きたいんだ、一緒に来てもらえるかな」

男が行ったハッキングはマスコミに取り上げられ、自宅には多くのマスコミが押しかけた。
初犯であったこともあり、男は執行猶予つきの判決ですんだ。
だが男は大学を退学となり、家族は離散した。
家を出て1人暮らしを始め、バイトで食いつなぐ日々が始まった。