2016年4月2日土曜日

銘柄を明かさない理由R55 シンプルプラン発動

第55話 シンプルプラン発動

小柄な小動物を連想させる女性社員は、トレーディングの真っ最中だった。
変だわ、小柄な小動物を連想させる女性社員は思った。
一見すると、別々の大口の買い注文と売り注文に見える。
だが、よく見ていると、約定するタイミングが同じだった。

株価操縦だわ、察知した女性はインカムの通話スイッチを入れた。
「株価操縦の動きを確認、シンプルプランの発動をお願いします」、女性が報告する。
「了解」、創設者の女性社員から応答があった。
おかしな動きがあるかもしれないという話は本当だったんだわ、女性は思った。

アルカディアの創設者である無敗のクイーンから話があった。
「無敗の個人投資家たちのログイン画面に、何者かが頻繁にアクセスしているようだ。
おかしな動きがあったら、すぐ報告しろ。
合い言葉は、シンプルプランを発動しろだ」

シンプルプランの発動依頼を受けた無敗のクイーンは、システムを起動した。
取締役会で、情報システムの社員から報告があった。
無敗の個人投資家たちの売買データが狙われているというものだった。
味方ならこのような手の込んだことはしない、無敗のクイーンは思った。

無敗のクイーンは攻撃に備え、情報システムにあるシステムの構築を依頼した。
依頼したのは、架空の個人投資家の取引口座をベースにしたシステムだった。
架空の個人投資家の取引口座は、過去の取引は無敗で運用額は数億円だった。
情報システムによる突貫作業でデータは完成、完成後は定期的にログインさせていた。

無敗の個人投資家たちの売買データを狙うのなら、必ずこのデータに食いつく筈だ。
「オートログイン完了、シンプルプラン発動」、システムの電子音声が告げる。
電子音声は依頼していなかったが、奴には余裕の仕事だったってことか。
「不正ログイン感知」、システムの電子音声が告げた。

架空の個人投資家の取引口座には、いくつかの保有銘柄が仕込んであった。
また売買プログラムには、各銘柄の値動きを基にしたアルゴリズムが組み込んであった。
現在の株価と出来高から、買値、売値および数量を自動計算、発注するシステムだった。
無敗のクイーンは、日頃の出来高が少ないある銘柄に狙いを定めた。

無敗のクイーンは素早く銘柄コードを入力、ENTERキーを叩いた。
モニターの取引画面に、自動でいくつかの買い注文が浮かび上がった。
ほどなくして呼応するかのように、大口の買い注文と売り注文が現れた。
「わかりやすいな、やはり敵か」、無敗のクイーンはつぶやいた。