2016年4月3日日曜日

銘柄を明かさない理由R56 誰がために

第56話 誰がために

小柄な小動物を連想させる女性社員は呆気にとられた。
取引画面から、明らかに株価操縦だと思われる注文が消えたのである。
インカムを通して女性はいった、「注文が消えました、ありがとうございます」
「前場は任せろ」、無敗のクイーンから応答があった。

無敗のクイーンは、社長室秘書への通話スイッチを入れた。
「ご用件は何でしょうか」、社長室秘書が応答する。
「アルカディアメンバーを招集しろ」、無敗のクイーンが命じる。
「かしこまりました」、社長室秘書が応答する。

「あと、最近、変わった出来事がなかったか、報告するように伝えてくれ」
社長室秘書が、わずかだが躊躇した。
「変わった出来事とはどのような出来事でしょう」
「誰かにアルカディアのことを聞かれたりしていないかとかだ」

社長室秘書が息を呑む気配が、インカムを通して伝わってきた。
さては、こいつか、情報を漏えいした犯人は。
今さら責任追及をしても仕方がない、時間のムダだ、無敗のクイーンは思った。
「かしこまりました」、社長室秘書から応答があった。

前場が終わり、昼のミーティングが始まった。
10名のアルカディアメンバーに無敗のクイーンが告げる。
「アルカディア創設以来の敵の攻撃が確認された。
敵が誰なのか、また攻撃する目的が何なのかはわかっていない。

だが攻撃された以上、我々は反撃しなくてはならない。
なぜなら勝ち続けることこそが、我々のレゾンデートル、存在価値だからだ。
お前たちは選ばれし者だ、自分たちが世界で一番、偉いと思え。
お前たちに勝てる奴など、この世に存在しない」

ミーティングが終わると、アルカディアメンバーは席に着いた。
全員がインカムを装着し、後場の開始を待った。
無敗のクイーンのインカムに、テンが選曲したらしいアニメの主題歌が聴こえてきた。
アルカディアメンバー全員に聴こえているはずだが、誰も表情には出さない。

シンプルプランは、架空の個人投資家の売買データをおとりに敵をおびき寄せる。
アルカディアは敵の動きに合わせ、臨機応変に売買を行い、最後には勝利する。
我々に攻撃したらどのような目に遭うか、思い知るがいい。
どれだけ長い戦いになろうが必ず勝ってやる、無敗のクイーンは不敵な笑みを浮かべた。