2016年4月6日水曜日

銘柄を明かさない理由R57 桜の下で

第57話 桜の下で

天使の笑顔をもつ男は、新年度を迎えた。
キャンパスの至るところで、新入生へのサークル勧誘が行われている。
桜が満開の中、天使の笑顔をもつ男は、ある思い出を思い返していた。
それは幼い頃の思い出だった。

その思い出は、家族で公園へ花見に出かけたときの思い出だった。
「わあ、きれい」、妹が満開の桜を見て声をあげる。
「このあたりで、お花見にしましょう」、母親がいう。
「ようやく飲めるな」、父親がおどけていった。

満開の桜の中、天使の笑顔をもつ男は、家族と楽しいときを過ごした。
妹は桜の幹を揺らして花びらを落とそうとした。
だが、桜の花びらは妹が揺らせたぐらいでは落ちない。
「いくら力持ちでも、桜さんにはかなわないわね」、母親が笑いながらいった。

父親は缶ビールを飲みすぎたのか横になった。
「お父さんは寝る、お前ら遠くへ行くなよ」
「探検に行こうか」、天使の笑顔をもつ男は、退屈そうな妹にいった。
「タンケン♪タンケン♪タンケン♪」、天使の笑顔をもつ男と妹の探検が始まった。

ふと、視線を感じて横を見ると、女友達が不思議そうに見ていた。
「ごめん、考え事してた、そうだ、週末、花見に行かない」
女友達はにっこりと微笑み、嬉しそうにうなずいた。
「じゃあ、週末は花見で決まりだね」、天使の笑顔をもつ男はいった。

週末、天使の笑顔をもつ男は、女友達と公園に花見に出かけた。
2人分のスペースを見つけると、シートを広げた。
女友達が持参してきた弁当を開け、持参したハイボールで2人は乾杯した。
満開の桜の下、2人だけの花見が始まった。

「あら、誰かと思ったら、こんなところで会うとは偶然ね」
天使の笑顔をもつ男が振り向くと、春らしい装いをした定食屋の女性店主がいた。
「奇遇ですね、花見にきてらっしゃるんですか」、天使の笑顔をもつ男はたずねた。
「常連さん達と花見に行こうって話になってね」、女性店主は笑いながらいった。

「あの男の人も来ているんですか」、天使の笑顔をもつ男は聞いた。
「誘ったんだけど、人の多い花見は苦手だって断られたわ、じゃあ、またね」
視線を感じて横を見ると、女友達が不服そうに天使の笑顔をもつ男を見ていた。
「探検・・・には行かないよね」、天使の笑顔をもつ男はいった。