2016年4月13日水曜日

銘柄を明かさない理由R59 反撃の狼煙

第59話 反撃の狼煙

やはりな、情報システムの男は思った。
個人投資家が利用するログイン画面への不正アクセスがあった。
しかも日によって、経由するサーバーを変えるという手口だった。
だが、いくら経由するサーバーを変えても、痕跡を消し去ることは不可能だ。

元ハッカーの情報システムの男は、発信元を探り当てた。
いずれも都内にあるネットカフェからのアクセスだった。
おそらく、身分証明の必要のないネット利用なしで入店している。
入店後に店内を移動、ネット利用可能席へ移動してアクセスしているに違いない。

男は何回かネットカフェを利用したことがあった。
その際に思ったのは、杜撰な管理体制だった。
店員が、客の利用状況をチェックするため、巡回しているネットカフェはなかった。
店員は、精算時に利用時間がオーバーしていないか確認するだけだ。

男は思った、おそらく入店時に奴は変装している。
店内のカメラ位置から、なるべくカメラに映らない位置で動いていたはずだ。
そうなると奴を特定するのは、事実上、不可能かもしれない。
どうすれば奴を白日の下に晒すことができる、男は考え始めた。

同じ頃、違うフロアの一室でも反撃が始まろうとしていた。
部屋のドアをノックする音がした。
「入れ」、取締役を兼ねる営業責任者の男はいった。
「社長と個人的な繋がりがある業界関係者がわかりました」、若い男性社員がいった。

「社長と個人的な繋がりがある業界関係者は3名です。
全て社長が、かって在籍していた、破綻した大手証券会社の元社員です。
彼らは今も業界では多大な影響力を持っています」
若い男性社員は、取締役を兼ねる営業責任者の男にリストを差し出した。

「ご苦労だった、あとは任せてもらおう」、取締役を兼ねる営業責任者の男はいった。
「何かお手伝いできることがあれば、何なりと仰ってください」、若い男性社員がいう。
「いつか、そのときがくれば、君に頼るよ」、取締役を兼ねる営業責任者の男はいった。
「わかりました、ご指示をお待ちしています」、若い男性社員は退室した。

ターゲットは3名か、思ったより早く絞り込めたな。
社長に個人的な恨み、あるいは妬みがありそうな奴に絞って正解だったかもしれない。
あとはどうやって追い詰めるかだが。
ふと一人の男の顔が浮かんだ、営業責任者の男は、その男の名刺を取り出した。