2016年5月3日火曜日

銘柄を明かさない理由R64 相場師の花舞台

第64話 相場師の花舞台

その株は、今までにない出来高を伴い、株価を騰げつつあった。
ネット取引が主流となった現在では、仕手戦を見抜くことは困難である。
だが、その株が仕手株になったことは、多くの者が知るところとなった。
相場に手慣れた者にとっては、仕手戦を見抜くことは容易いのである。

アルカディアを有する証券会社の会長、巨躯の男も仕手戦に気づいていた。
どこのどいつが仕掛けたのか知らないが、わかりやすい仕手戦だ。
仕手戦は上手く立ち回れば、大きく儲けることができるチャンスだ。
あの男勝りの女が、このチャンスをどう利用するか。

会長である巨躯の男は、仕手戦の経験者だった。
最後の相場師と呼ばれた男の元、仕手戦に参戦、勝利した過去があった。
仕手戦こそ、相場師の花舞台だ。
あの女が、どのような舞いを魅せてくれるか、お手並み拝見といこうか。

ある証券会社の資産運用を担当する部署、通称アルカディア。
仕手戦は、株価を騰げたい買い方と、株価を下げたい売り方の戦いだ。
今は動かずに、資金を温存する。
株価を釣り上げたければ、釣り上げるがいい。

貴様たちが高値で売りに転じたとき、更に買い上がってやる。
売りはなしだ、青天井で一気に踏み上げてやる。
貴様たちの投じた資金がMAXになったとき、終わりの始まりだ。
男勝りの女こと無敗のクイーンは、その端正な顔に不敵な笑みを浮かべた。

その株は出来高を伴いながら、じりじりと株価を騰げつつあった。
やがて多くの投資家の知るところとなり、更に出来高が増えていった。
便乗する外国人投資家や機関投資家により、連日、年初来高値を更新していた。
いわゆる「提灯がつく」といわれる状態になっていた。

同じ頃、男は照度の低い部屋で、その株の株価チャートを見ながら思っていた。
予定していたより、多くの資金を借り入れることになったが、まあいい。
高値で売りに転じれば、回収しても有り余る資金を得ることができる。
そのとき、奴らは高値掴みしたことに気づき、青ざめることだろう、男は嗤った。

さて、いつ売りに転じるか、嗤いながら男は考えた。
奴らに最大のダメージを与えるため、売りに転じる前に一発、打ち上げておくか。
嗤う男は内線に手を伸ばし、出た相手に手短に指示を与えた。
翌日、その株の株価は大幅に上昇、年初来高値を更新した。