2016年6月4日土曜日

銘柄を明かさない理由R74 大阪から来た男(中編)

第74話 大阪から来た男(中編)

無敗のクイーンはランチを終えて、会社に戻ってきた。
最近、テンは弁当を作ってくるようになった。
奴の家柄からして、いつまでも独身というわけにはいかないだろうからな。
奴には奴の人生がある、その時がくれば応援してやろう。

無敗のクイーンが、受付の前を通りがかったときだった。
受付カウンターの前に、身なりのさえない男がいた。
受付の女性社員は、アルカディアメンバーだ。
その彼女が困惑した様子で、身なりのさえない男とやり取りしている。

変な来客に対応するのも受付の仕事だ、頑張れよ。
心の中でエールを送ったとき、無敗のクイーンはあることに気づいた。
その男の身なりはさえないが、最高級の靴を履いていた。
あまりにもギャップのある男に、無敗のクイーンは関心をもった。

「そうやな、自社の資産を運用する際の判断基準を教えてもらおか」と男がいった。
「お待ちください」受付の女性社員は総務部への内線に手を掛けようとしていた。
「資産を運用する際の判断基準を聞きたいのか」
無敗のクイーンは男に声をかけた。

「その通りでんがな、それこそがワテが聞きたいことですねん。
えらい別嬪さんやけど、ワテが聞きたい判断基準をご存知なんでっか」と男がいう。
受付の女性社員が目で、大丈夫ですかと聞いてくる。
無敗のクイーンは目で、大丈夫だと返しておいた。

無敗のクイーンは、男を応接コーナーに案内した。
男は浪花の相場師で、皆から淀屋と呼ばれているといった。
淀屋か宿屋か知らないが、見たことも、聞いたこともない。
自己紹介ができるようになってから出直すよう、無敗のクイーンはいった。

「しゃあないな」、淀屋は懐から二つ折りの財布を取り出した。
財布から運転免許証を取り出すと、無敗のクイーンの前に置いた。
「ワテの身分証明ですわ、これで、どこのどいつかおわかり頂けますやろ」
ふと無敗のクイーンの背後を見た淀屋の顔が固まった。

無敗のクイーンが振り向くと、そこにはアルカディアメンバー10名全員が揃っていた。
テンはどこから持ってきたのか、掃除用のモップを持って、淀屋を睨んでいる。
どうやら受付の女性社員が、アルカディアメンバーに召集をかけたらしい。
「ワ、ワテは何も悪いことしてまへん、な、なんですの、この状況は」