2016年6月5日日曜日

銘柄を明かさない理由R75 大阪から来た男(後編)

第75話 大阪から来た男(後編)

無敗のクイーンが振り向くと、そこにはアルカディアメンバー10名全員が揃っていた。
テンはどこから持ってきたのか、掃除用のモップを持って、淀屋を睨んでいる。
どうやら受付の女性社員が、アルカディアメンバーに召集をかけたらしい。
「ワ、ワテは何も悪いことしてまへん、な、なんですの、この状況は」

総務部に勤める女性社員がいった。
「当社のIRについてお知りになりたいのであれば、私がお答えいたします」
経理部に勤める女性社員がいった。
「当社の詳細な財務内容をお知りになりたいのであれば、私がお答えいたします」

広報に勤める女性社員がいった。
「当社のマーケティング戦略をお知りになりたいのであれば、私がお答えいたします」
相変わらず、テンは掃除用のモップを持って、淀屋を睨み続けている。
頼もしい奴らだ、アルカディアメンバーを見ながら、無敗のクイーンは思った。

「ワテが聞きたいのは資産を運用する際の判断基準でんがな。
誰がいつ、どのように判断しとるかっちゅうことですわ」、淀屋がいった。
「ここにいる10名が判断している」、無敗のクイーンが答えた。
淀屋は目を見開きいった、「ウソでっしゃろ」

「ウソではない、ここにいる10名は我が社の精鋭トレーダーだ」、無敗のクイーンがいった。
「運用する際の判断基準はあるんでっか」、淀屋がいう。
「我々には独自の判断基準がある」、無敗のクイーンはいった。
「具体的な判断基準を教えてもらへまへんか」、淀屋がいう。

置かれた運転免許証を手にとり一瞥すると淀屋に返し、無敗のクイーンはいった。
「判断基準は、無敗の個人投資家たちの売買データだよ。
我々は彼らの売買データを元に、判断し運用を行っている」
最後に無敗のクイーンは淀屋を本名で呼び、回答に満足したか確認した。

淀屋は愛嬌のある笑顔になり、いった。
「おおきに、東京まで来た甲斐がありましたわ。
でも、なんで初対面のワテにそこまで教えてくれたんでっか」
「知られたところで、我々が無敗であることは変わらない」、無敗のクイーンはいった。

「おおきに、大阪へ来ることがあったら、いつでも連絡しとくんなはれ。
歓迎しますよってに」、淀屋は連絡先を書いたメモを残し帰っていった。
テンがいった、「あの人、イケメンの芸人さんに似てますね」
皆から、タイプなんですかと冷やかされ、テンは耳まで真っ赤になった。