2016年6月6日月曜日

銘柄を明かさない理由R76 親族会議

第76話 親族会議

大阪の一流ホテルで、ある一族の親族会議が開かれていた。
数百名の出席者に、高齢の鶴のような体躯の男が張りのある声でいった。
「本日も無事、淀屋の一族が集うことができた。
誠に喜ばしいことである、これも一重に皆の頑張りの賜物じゃ、感謝する」

会場からは、どよめきと歓声があがる。
鶴のような体躯の男、現在の淀屋本家の当主は続けた。
「我らは同じ血の流れる一族じゃ。
一族の力を必要とする者は、遠慮なく申し出るがよい」

1人の女性が挙手をした。
発言権を与えられた女性は話し始めた。
「ここんとこ景気が低迷して、日本経済は元気がおまへん。
相場を使って景気よくしようと思うんやけど、皆さんご協力願えまへんやろか」

その女性は一族の中でも有名な女相場師で「難波の女帝」と呼ばれていた。
「関東のお偉方は、経済ちゅうもんをわかってはらへん。
ご先祖さまのように、相場を使って日本経済を元気にするべきときとちゃいまっか」
会場の賛同者から、拍手が起こった。

1人の男が挙手した。
発言権を与えられたイケメンの芸人に似た男は話し始めた。
「ご先祖さまは米市を作りはったんであって、相場を動かしたわけやおまへん。
株価操作は違法行為や、ワテは止めた方がよろしいかと思います」

難波の女帝は、反論した男を見据えるといった。
「誰かと思えば分家のあんたかいな、あんたのしてることこそ株価操作やで」
イケメンの芸人に似た男はいった。
「ワテは相場で儲けた金を、中小企業に無利息で融資してます」

難波の女帝は、不敵な笑みを浮かべるといった。
「儲けるために何をしたんや、株価操作したんやろが。
分家のくせに淀屋の屋号を名乗れるのは、誰のおかげか、わかってんのか。
ホンマやったら、あんたはこの場におられへん人間なんやで、わかっとんのか、返事は」

「すんまへん」、男は引き下がった。
その後、難波の女帝が話し始めた計画は、恐ろしい内容だった。
聞きながら男は血の気が引いていくのを感じていた。
こんなん景気対策でも何でもないやん、男は思った。