2016年6月7日火曜日

銘柄を明かさない理由R77 恋するモップちゃん

第77話 恋するモップちゃん

ある日のこと、代表電話がある総務部からアルカディアに内線があった。
「淀屋と名乗る方からお電話です、おつなぎいたします」
無敗のクイーンが席を外していたので、無敗の天然ことテンが電話に出た。
「淀屋です、今から伝えることは大事なことでっさかい、きっちりメモっとくんなはれ」

「あの、リーダーは今、席を外しているんですけど」、テンがいう。
「何や、あの別嬪さんと違うんかいな、あんたは誰や、こないだおった女の子の1人か」
「はい、あのとき、後ろにいた1人です」、テンがいう。
「ワテから見て、何番目の女の子や」、淀屋が聞く。

「左からいうと3番目、右からだと・・・8番目でした」、テンが答える。
「あ~思い出したで、モップ持ってた子やんか」、淀屋が笑いながらいう。
「はい、あのときはすいませんでした」、テンは謝った。
「気にしてへんよ、それより大事なこと伝えるから、メモしてや」

淀屋は受話器越しにでもわかる真剣な口調でいった。
「近いうちに大きく下がる株があるけど、決して手出したらあかんで」、淀屋がいう。
「どうしてなんですか、手を出すか出さないかは私たちが決めることです」、テンがいう。
淀屋は少しの間、沈黙した、言葉を選んでいるようだった。

「確かに理不尽な忠告に聞こえるかもしれんな。
ワテがいわれても納得せんわ、けど訳あって詳しいことはいえんのや。
ええか、モップちゃん、近いうちに大きく下がる株には気いつけや。
あの別嬪さんにも伝えといてや、ほな」、淀屋はいいたいことをいうと電話を切った。

モップちゃんか、初めての呼び名だ。
小柄な小動物を連想させる女性は、入社以来、天然だと言われ続けてきた。
彼女は彼女なりに一生懸命やってきたつもりだ。
だが、いつもミスをして部署を転々とさせられてきた。

モップちゃんになるのもいいかもしれない。
いつも片手にモップを持つモップちゃん、テンはイスを滑らせる。
そこ綺麗にしといてやといわれて綺麗にするモップちゃん、テンはまたイスを滑らせる。
「何をしているんだ」、振り向くと無敗のクイーンが腕組みして見ていた。

一瞬、頭が真っ白になったテンは慌てていった「流行のオフィスエクササイズしていました」
テンは淀屋からの電話の内容を、無敗のクイーンに伝えた。
「面白い、相場で何かが起ころうとしている」、無敗のクイーンは不敵な笑みを浮かべた。
このとき2人は知らなかった、大きく下がる株がメイン株の1つであることを。