2016年6月12日日曜日

銘柄を明かさない理由R83 パンドラの箱(前編)

第83話 パンドラの箱(前編)

パンドラの箱とは、この世の全ての災いを収めた箱のことである。
古代ギリシャの神ゼウスは、パンドラにこの世の災いを収めた箱を持たせた。
地上に降り立ったパンドラは、好奇心からこの箱を開けてしまう。
全ての災いが箱から飛び出し、慌てて蓋をしたが、残ったのは「希望」だけだった。

4人は食後の飲み物を飲みながら、世間話に興じていた。
淀屋は違和感をもった、この秘書とかいう男、本当に秘書なんやろか。
秘書なのに対等の立場で物言いしよる、秘書ならこんな物言いせんやろ。
カマかけてみよか。

やがて、無敗のクイーンがトイレに席を外した。
「ところで秘書さんは何年、秘書やってはるんでっか」、淀屋は秘書にたずねた、
「そうですね、かれこれ10年近くになりますね」、秘書の男は答えた。
「そうでっか、長いことやっておられるんや」、淀屋がいった。

無敗のクイーンがトイレから戻ってくると、淀屋が聞いた。
「ところで別嬪さんは何年前に秘書がついたんでっか」
無敗のクイーンは瞬時に気づいた。
この唐突な質問は罠だ、席を外している間に何かやりとりがあったに違いない。

「何年前だったかな」、無敗のクイーンは秘書を装った調査会社の男を見た。
調査会社の男の目は、任せろといっていた。
「テンが来てからだから、かれこれ3年になるかな」、無敗のクイーンは答えた。
淀屋の目が光った。

「社長の秘書からあなたの秘書になったのは4年前ですよ」、秘書がいった。
「そんなになるか」、無敗のクイーンがいう。
「ここだけの話、彼女は自己中ですが、誰よりも仕事ができる女性なんです。
だが、お目付け役がいないとまずいということで、私が秘書に任命されたのです」

「なるほど、そういう事情があったんでっか。
どうりで秘書らしからぬ物言いをしはるわけや」、淀屋は納得した。
「いやあ、本当に楽しい時間でした、ところで淀屋さん」、秘書がいう。
「何でっしゃろ」、淀屋が笑顔で聞く。

「淀屋の一族が大手企業を乗っ取り、外資企業に売り渡すという計画は本当でしょうか」
いきなりの核心をついた質問に、場は静まり返った。
この男、いきなり直球をぶつけてきやがった、今の沈黙で認めたも同然や。
ワテとしたことが、すっかり油断してたわ、淀屋は思った。