2016年6月16日木曜日

銘柄を明かさない理由R86 その女、無敗につき(後編)

第86話 その女、無敗につき(後編)

1分も経たないうちに、若い男は路上に叩きのめされていた。
「大丈夫ですか」、介抱する彼女に年配の男性はいった。
「すまない、娘のような女性に助けてもらうとは、私も歳だな。
すぐそこに私の会社がある、お礼をさせてもらえるかな」

これから面接があるため、彼女は断ろうとした。
だが先ほどの激しい動きで、スーツの上着は大きく破れていた。
この格好じゃ笑われるだけだな、後の予定はないし、つきあってみるか。
彼女は年配の男性の会社に、ついていくことにした。

年配の男は、ある証券会社の社長だった。
社長室へ通された彼女に、飲み物を運んできた秘書らしき女性がいった。
「上着を預からせていただけますか」、彼女は破れた上着を渡した。
「ひょっとして、就職活動をされていたのかな」、入ってきた社長がたずねた。

「はい、今日は十数社目の面接予定でした」、彼女は答えた。
「どうだね、我が社を受けてみる気はないかね、これも何かの縁だ。
もちろん採用にあたって、特別扱いはしないがね」、座りながら社長はいった。
「御社は、どのような仕事をされているのでしょうか」、彼女はたずねた。

「企業の価値を表すものが、時価総額といわれるものだ。
例えば、時価総額が100億円の企業が1億株を発行しているのなら、株価は100円だ。
だが実際はそうはならない、100円の株が1,000円になったり、10円になったりする。
お客様に真の情報提供し、資産運用を手助けすることが我々の仕事だよ」、社長はいった。

「御社が求める人材を教えていただけますか」、彼女はたずねた。
「私たちが欲しいのは、自分をしっかりと持っている人だ。
世界で自分が一番、偉いと思っているような、自分に自信を持っている人だよ」
社長はにこやかにいった。

社長室のドアがノックされ、社長が入室を許可すると、秘書らしき女性が入ってきた。
秘書らしき女性は、預かっていたスーツを彼女に手渡した。
「応急ですが繕っておきました、これは当社からの感謝の気持ちです」
秘書らしき女性は、彼女に現金の入った封筒を渡すと退室した。

「起きろ、もうすぐ東京だぞ」、テンが目を覚ますと、大阪から帰る新幹線の中だった。
不思議な夢を見た、ひょっとして、無敗のクイーンの夢を見たのだろうか。
「母子家庭で、小さい頃からケンカが強かったりとかします?」、テンは聞いてみた。
「母子家庭だよ、ケンカはそうだな、弱くはなかったよ」、無敗のクイーンは答えた。