2016年6月17日金曜日

銘柄を明かさない理由R87 株の魅力

第87話 株の魅力

その証券会社は、最後の相場師に師事した巨躯の男が作った会社だった。
現在の社長は、破綻した大手証券会社の元エリート社員。
社歴こそ浅いが、今、最も勢いのある証券会社だった。
会社の資産運用を担当する部署は、アルカディアといった。

アルカディアを率いるのは、端正な顔立ちの女性、無敗のクイーン。
専属社員は、小柄な小動物を連想させる若き天才女性トレーダー、無敗の天然ことテン。
他の9名の女性トレーダーも含め、アルカディアには精鋭が揃っていた。
ストップ安の株をストップ高にしたアルカディアは、今や業界内で知らない者はいなかった。

大阪へ出向いた日の翌日。
アルカディアで無敗のクイーンにテンが話しかけた。
「難波の女帝の狙いの株は、アルカディアのメイン株の1つだったんですね」
「気にすることはない、かぶることもあるだろう」、無敗のクイーンがいう。

アルカディアは、無敗の個人投資家たちの売買データを元に運用を行っていた。
難波の女帝が標的とした株は、ある無敗の個人投資家のメイン株でもあった。
リーマンショック、東日本大震災で買い向かった無敗の個人投資家。
あの男がどう動くかだ、無敗のクイーンは思った。

だが、無敗のクイーンは知らなかった。
一緒に大阪へ行った調査会社の男が、その無敗の個人投資家であることを。
「今日も順調に下げてますね」、テンがいう。
順調な下げか、テンらしい表現だ、無敗のクイーンは笑いそうになった。

都内のある調査会社。
男は大阪出張の報告書をまとめ終えると、帰り支度を始めた。
「いつも、定時であがるんですね」、女性社員がいった。
「今日は寄るところがあるんだ、お先に」、男は笑顔でいった。

男は女性社員の父親と同い年だと聞いたことがある。
女性社員の父親は、破綻した大手証券会社のエリート社員だった。
父親とは、何年も会っていない。
今、どこで何をしているのか。

女性社員は株はギャンブルだと思っている。
ギャンブルだから、父親の勤めていた証券会社は破綻したのだ。
株の何が人を惹きつけるのか。
女性社員にはわからないし、知りたいとも思わなかった。