2016年6月21日火曜日

銘柄を明かさない理由R91 魔王と天使(後編)

第91話 魔王と天使(後編)

車に乗り込むと、巨躯の男は社長に電話した。
電話に出た社長に巨躯の男はいった。
「難波の女帝という相場師が、うちの女性社員に関心があるようだ、詳細を報告しろ」
「承知しました」、社長はいった。

ほどなくして、社長から会長へ電話があった。
社長は、難波の女帝の標的がアルカディアのメイン株の1つであること。
アルカディアは今は静観している状態であること、最後に標的の銘柄名を伝えた。
「わかった、ご苦労だった」、会長は通話を終えた。

面白い、何度となく手がけた株だ、あの女狐め、この株に手を出したことを後悔させてやる。
巨躯の男は冷酷な笑みを浮かべた。
運転手はルームミラーに映る巨躯の男の冷酷な笑みを見て思った。
あのような笑い方をする人間は初めて見た、まるで魔王のようだ。

助手席には、巨躯の男の男性秘書が乗っていた。
「すぐ使える資金を教えろ」、巨躯の男が男性秘書に命じる。
「かしこまりました」、男性秘書は慣れた手つきでノートPCを開いた。
何か始まるのか、運転手は背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。

都内某所のマンション。
天使の笑顔をもつ男は、ある株の異常な値動きに気づいた。
この異常な値動きはなんだ、相場に関係なく下がり続けている。
天使の笑顔をもつ男は、定食屋で男から聞いた話を思い出した。

「仕手株って知っているかい。
意図的に株価操作される株のことだよ。
面白いことに仕手株になる株は決まっている、例えば、こういう銘柄だ」
男はいくつかの銘柄をあげた。

「仕手株は上手く売り買いすれば、大きく儲けることができる株だ。
他の連中より、一歩先をいけばいいだけのことだ。
一歩先をいくには、頭と尻尾はくれてやれで売り買いすればいい」
異常な値動きをしている株は、男が教えてくれた仕手株の1つだった。

買いなのは間違いないが、問題はいつ買うかだ、天使の笑顔をもつ男は思案した。
「また株見てるの、先に寝るね」、泊まりにきている彼女はいい寝室へ向かった。
「すぐにいくよ」と答えたとき、「頭と尻尾はくれてやれ」と再び男の声が聞こえた。
あの助言は、迷うなという意味だったのか、天使の笑顔をもつ男はようやく理解した。