2016年6月22日水曜日

銘柄を明かさない理由R92 天使の見る夢

第92話 天使の見る夢

「おにいたん、だ~れだ」
食事中に、いきなり後ろから目をふさがれた。
おにいたんっていえるのは、1人しかいない。
「だれだろ、あの人かな、それともあの人かな」

目を押さえる手には、外れないように力を込めているのがわかる。
「まいった、こうさん、どちらさんですか」
手が離れ、妹が横に回り込んできていった、「おにいたんのいもうとで~す」
「早くごはん食べなさい、冷めちゃうわよ」、母親が笑いながらいう。

試験の過去問を解いているとき、部屋のドアがノックされた。
どうぞというと、ドアを開けて制服姿の妹が入ってきた。
「おめでとうございます、お兄様」、妹がにんまりとした笑顔でいう。
「な、何が、おめでとうなんだ」、たじろぐ兄に妹がいう。

「お兄様は、明日の私の買い物パートナーに選ばれました~。
明日、9時に出発です~でわでわ~」
「おい、ちょっと待て、聞いてないぞ、明日は急すぎ・・・」
兄が言い終わる前に、妹は部屋から出て行った。

翌日、兄は大量の買い物袋を持たされていた。
「まだ終わらないのか」、ぐったりした兄が妹にいう。
「どちらが似合うと思う」、妹が服を手に取り、兄に聞く。
「どちらも似合う、頼む、頼むから早くしてくれ」、兄は懇願するようにいった。

昼下がりのカフェ。
美男美女の兄妹に、周囲の視線が集まっていた。
「周りの人は絶対、カップルだと思ってるよね」、ドリンクを飲みながら妹がいう。
「くだらないこといってないで、さっさと飲め、帰るぞ」、兄はいった。

兄は大学に合格して、都内で1人暮らしを始めた。
ある日、親戚から電話がかかってきた。
実家が火事だ、家族とは連絡がついていない、すぐに帰ってくるように。
すぐに帰ったが、家族は無事ではなかった。

寝室のベッドの中、彼女は天使の笑顔をもつ男の寝顔をみていた。
また寝ながら涙を流している、どんな夢を見ているの。
夢のことを聞いても、何も話してくれない、いったい、どんな夢を見ているの。
薄暗い部屋の中、彼女は天使の笑顔をもつ男の寝顔を見続けていた。