2016年6月24日金曜日

銘柄を明かさない理由R93 魔弾の射手(前編)

「魔弾の射手」とはドイツの民間伝説に登場する意のままに命中する弾を持つ射撃手である。
この伝説では、7発中6発は射手の望むところに命中、残り1発は悪魔の望む箇所へ命中する。

第93話 魔弾の射手(前編)

調査会社に勤務する男は、また相場師たちの夢を見た。
だが前の夢より部屋は明るく、男たちの顔ははっきり見えた。
「そろそろ買いですな」、本間がいう。
「誰が見ても買いだろう」、福澤がいう。

「慌てず、ゆっくりいくことだ」、本多がいう。
「今が買い時や、いてもうたれ」、是川がいう。
男は目覚めると苦笑しながら思った、わかってますよと。
男はシャワーを浴び着替えると、買い注文を入れるべくPCを起動させた。

天使の笑顔をもつ男は、PCを起動した。
「何しているの」、彼女がベッドから眠そうな声で聞いてきた。
「これから株を買うんだ、寝てていいよ」、天使の笑顔をもつ男はいった。
「わかった、眠いんで寝る」、彼女はすぐに寝息を立て始めた。

頭と尻尾はくれてやれだ。
初めての仕手戦だが、必ず勝ってやる。
自分は世界で最も偉い、自分に勝てる奴などいやしない。
天使の笑顔をもつ男から、笑みが消えた。

早朝のアルカディアで、無敗のクイーンはシステムを起動し、あることを確認していた。
ついに来たか、それはある無敗の個人投資家の買い注文だった。
通勤中のアルカディアメンバーに向けて、社長室秘書から召集メールが発信された。
「始業前にアルカディアへお集まりください」

始業時間になり、アルカディアでは朝のミーティングが行われていた。
無敗のクイーンがメンバーにいう。
「お前たちは選ばれし者だ、自分たちが社内、業界、いや世界で一番、偉いと思え。
お前たちに勝てる奴など、この世に存在しない、必ず目標を達成しろ」

証券会社の会長である巨躯の男の気分は高揚していた。
久々の相場だ、何もかもが懐かしい。
このような機会を与えてくれた女狐には礼をせねばなるまい。
巨躯の男は男性秘書に、買い注文の内容を伝えた。

男性秘書が答える、「これだけの買い注文でよろしいのですか」
巨躯の男がいう、「今回は初弾だ、次弾は改めて指示する」
会長が動かせる資金は莫大な額だ。
この勝負、難波の女帝に勝ち目はないな、男性秘書は思った。