2016年6月26日日曜日

銘柄を明かさない理由R95 魔弾の射手(後編)

第95話 魔弾の射手(後編)

翌日も同じだった。
前日終値を割り込んでスタートする。
ところが、取引時間終了間際になると、閃光の買いが入った。
その日の取引終値も前日比プラスとなった。

大阪難波
取引終値を見た難波の女帝は内線をかけると怒鳴りつけた。
「ふざけたことするのは誰かわかったか、なに、まだ見つけてへんのか。
はよ、見つけんか、今すぐや、今すぐ見つけるんや」

最初に前日比プラスとなってから、その株は10営業日連続で騰がり続けた。
「いよいよ反転か」、「早く参戦しないと乗り遅れる」
その株は記録的な出来高を伴いながら、騰がり続けた。
俗にいわれる、「提灯がついた」状態である。

首都高のインターを降り、走行する車の中。
「明日の買いはどうなされますか」、助手席の男性秘書が聞く。
「これ以上、弾を撃つ必要はない、あとは他のものが撃ってくれる。
女狐は撃たれまくって、瀕死の状態かもしれんな」、巨躯の男は冷酷な笑みを浮かべた。

大阪難波
難波の女帝は、内線に怒鳴りつけていた。
「ふざけたことした奴は、まだ見つからんのか、はよ見つけんか。
明日も売りや、こうなったらとことん売るんや」、難波の女帝は内線を叩きつけた。

「止めときなはれ」、声がした方を見ると、そこにはイケメンの芸人に似た分家の男がいた。
「分家のあんたかいな、勝手に部屋に入ってきて、何の用や」、難波の女帝がいう。
「今や買い方優勢や、誰が見ても勝敗は明らかや」、分家の男がいう。
「そんなことあらへん、一族は売り方のはずや」、難波の女帝がいう。

「一族が一致団結して売ってたら、ここまで株価は騰がりまへん」、分家の男はいった。
「ウチは・・・負けたんか」、難波の女帝がうなだれていう。
分家の男はいった。
「ご先祖様は幕府に財産没収されても再興しましたやん、最後の最後は淀屋が勝ちます」

部屋を出たイケメンの芸人に似た男は思った。
幕府に財産没収されたのが初代の本家、再興したのは二代目本家、すなわち元分家や。
今や全国の分家は初代本家が掌握しとる、難波の女帝たち二代目の時代は終わりや。
これからは初代本家の時代や、淀屋初代本家13代目当主の男は不敵な笑みを浮かべた。