2016年7月5日火曜日

銘柄を明かさない理由R100 魔王の誘い

第100話 魔王の誘い

天使の笑顔をもつ男は帰宅するため、大学の正門を出た。
「少々、お時間よろしいでしょうか」、近寄ってきたスーツ姿の男がいう。
「何でしょうか」、天使の笑顔をもつ男はいう。
「あなたとお話をしたいという方が、あちらの車でお待ちです」、男がいう。

通りの向こうには、黒塗りの高級車が停まっていた。
「誰が、何の話ですか」、天使の笑顔をもつ男が聞く。
「ある証券会社の会長が未来について話したいと仰っています」、男がいう。
証券会社の会長が、自分に何の用だ、未来の話って何だ。

「わかりました、聞くだけ聞きましょう」、天使の笑顔をもつ男は答えた。
車に近づくと、男は助手席のドアを開け、助手席に座るよう促した。
助手席に座るとドアが閉められ、後部座席に座っていた大柄な男が口を開いた。
「今から話すことは全て真実だ、聞いた上で、君の答えを教えて欲しい」

男が語ったのは以下の内容だった。
かって、最後の相場師といわれた伝説の相場師の話。
自分は最後の相場師の後継者だ。
世代交代の時期がきた、ついては自分の跡を継いで欲しい。

にわかには信じがたい話だった。
「どうして私に」、天使の笑顔をもつ男が答える。
「君のことを調べさせてもらった。全ての条件に適合したのが、君だけだった」
大柄な男がいった。

「引き受けるにあたって、何か条件はあるのですか、一定の利益を収めろとか」
天使の笑顔をもつ男はたずねた。
「そんな条件はない、ただ私と行動を共にし、投資手法を引き継いでもらうだけだ」
大柄な男はいった。

「少し考えさせていただけますか」、天使の笑顔をもつ男はいった。
「もちろん、構わん、その気になったら連絡をくれたまえ」、大柄な男はいった。
天使の笑顔をもつ男が助手席から降りると、最初に声をかけた男がいた。
男は連絡先を書いた紙を渡すと、助手席に乗り込み、車は走り去った。

走行する車の中。
「いかがでしたか、お話のほうは」、助手席の男性秘書がいう。
「あの男、話の間、一度も目を外さなかった、おそらく受けるだろう」、巨躯の男がいう。
「かしこまりました」、男性秘書がいった。