2016年7月7日木曜日

銘柄を明かさない理由R101 堕天使になった夜

第101話 堕天使になった夜

天使の笑顔をもつ男は、自宅で1人思い悩んでいた。
大柄な男の誘いを受けるか、受けないか。
今、自分は人生の大きな分岐点にいるんだろうなと思う。
どの道を選択するかで、自分の人生は決定する。

天使の笑顔をもつ男は思い出していた。
定食屋で、相場だけでやっていくことはできるのかと男に質問した。
「わらしべ長者みたいに資産を増やすことは、まず不可能だと思うことだ。
自分もそうだが、安定した収入のあるなしでは、ある方が圧倒的に有利だよ」

男は続けていった。
「福澤桃助、本多静六、是川銀蔵を知っているかい、彼らは偉大なる相場師だ。
だが彼らは会社員、公務員、実業家という一面も持っていたんだよ。
相場だけでやっていこうと考えるのは止めたほうがいい、いや止めなさい、だな」

ストレートな助言だった。
確かに相場は浮き沈みが激しい。
安定した収入がある方が、圧倒的に有利だということもわかる。
だが、天使の笑顔をもつ男は思う。

もし自分が安定した収入を求める人生を送るとする。
やがて、自分は結婚し、家庭を持つだろう。
家族と共に幸せになるために働く人生。
だが家族が不意にいなくなったら。

耐えられるのか、再び家族が不意にいなくなる悲しみに。
「おにいたん」、「お兄様」、妹の声が聞こえた。
無理だ、耐えられない。
家族がいなくなるのは、一度だけで十分だ。

定食屋で男は、こうもいっていた。
「死ぬ瞬間まで、どの選択が正しかったかは誰にもわからない。
ならば、己の進みたい道を選択することだ。
やらずに後悔するよりは、やって後悔する方がはるかにマシだ」

決めた、自分は自分の生きたいように生きる。
確かに、安定した収入があるに越したことはない。
だが、一度きりの人生、生きたいように生きよう。
たとえ地獄のような人生を送ることになろうとも、天使の笑顔をもつ男は思った。