2016年7月19日火曜日

銘柄を明かさない理由R107 The power of love(後編)

第107話 The power of love(後編)

「どうやら、君の知り合いらしいな、行って場を収めてきたまえ」、巨躯の男はいった。
「わかりました」、天使の笑顔をもつ男は車を降りると、女性の元へ向かった。
しかし、あの色紙を取り出し掲げた男は何者だ。
あとでゆっくりとあの男のことを聞くとしよう、巨躯の男は思った。

男性秘書と言い合っていた彼女は、近づいてくる天使の笑顔をもつ男に気づいた。
天使の笑顔をもつ男は、そっと彼女を抱きしめた。
調査会社に勤める男、証券会社の会長、会長の男性秘書と運転手。
彼らは、同じ光景を見た。

天使の笑顔をもつ男が、そっと彼女を抱きしめた瞬間。
天使の笑顔をもつ男の背中から、眩いばかりの翼が大きく広がった。
翼は大きく広がると、2人を包み込みように徐々に閉じ始めた。
2人は光の中に包まれ、やがて光は消え失せた。

「伝わったかな」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「うん、伝わった」、天使の笑顔をもつ男の彼女がいう。
「もう、大丈夫だよね」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「うん、大丈夫」、天使の笑顔をもつ男の彼女がいう。

「教えてくれ、今、見たのは幻なのか、それとも現実なのか」
男性秘書が調査会社の男に問う。
「さあ、どっちかな」
調査会社の男が答える。

「私は頭がどうにかしたのでしょうか、あり得ないものを見たような気がします」
運転手が後部座席に座る巨躯の男にいう。
「気のせいだ」
巨躯の男は答えた。

天使の笑顔をもつ男と男性秘書が車に乗り込んできた。
「お申しつけどおり、場を収めてきました。
時間が押し迫っています、そろそろ出発しないと間に合いませんよ」
天使の笑顔をもつ男は、微笑みながらいった。

走り去る高級車を見送りながら、調査会社の男は思った。
青年と高齢の男が車で走り去る、同じような外国映画を観たな。
その映画では、青年と高齢の男は車に乗って、時空を超えた旅をする。
男はその映画の主題曲を思い出していた。