2016年7月26日火曜日

銘柄を明かさない理由R110 異能の集団(後編)

第110話 異能の集団(後編)

巨躯の男がいう、「紹介が遅れたが、ワシの後継者だ」
「ご指導よろしくお願いしますね」、中学生の男子生徒が参考書を読みながらいう。
「先生の後継者ですか、きっと優秀なんでしょうね」、男性会社員がいう。
「後継者なら、さぞかし投資がお強いのかしら」、水商売の女性がいう。

男性秘書は、天使の笑顔をもつ男の横に立っていた。
天使の笑顔をもつ男の横顔を見ながら、男性秘書は思った。
この「研究会」は、最後の相場師が行っていた勉強会の流れを汲むものだ。
ここにいる者は異能の集団、会長が育て上げた怪物たちだ。

今や、国内相場に占める外国人投資家の割合は過半数を超えている。
会長はそのような状況を危惧されている。
会長の出した結論は、国内の相場師を育成することだ。
怪物ともいえる相場師を育て上げ、国内相場から外国勢を駆逐することだ。

この怪物たちに認められることができるか。
もし、認められなければ、そこで終わりだ。
なんだ、この男、何を笑っている。
何がそんなにおかしい、男性秘書は思った。

天使の笑顔をもつ男は、こみ上げてくる笑いを押さえきれなかった。
巨躯の男が天使の笑顔をもつ男にいう、「何かいいたいことがあるのか」
部屋が一瞬で静かになった、皆が次の言葉を待っているのがわかる。
天使の笑顔をもつ男は、部屋の全員を見回すといった。

「中学生の君、参考書を閉じたときと、再び開いたときのページが違いすぎる。
会社員風の方、左右の革靴は微妙にデザインが違う、そんな会社員は見たことない。
名刺をいただいた女性の方、名刺の住所は存在しない、つまり偽の名刺だ」
部屋の全員は黙って、天使の笑顔をもつ男を見ていた。

「あと決定的なのは、皆さんの報告した銘柄と1ヶ月のリターンだ。
信用取引を使わない限り、値動きの幅や出来高からしてあり得ないリターンだ。
最後の相場師は、信用取引を禁じていたと聞いている。
すなわち、皆さんは事実とは異なる報告をしたということになる」

「ふぅ、問題が簡単すぎたようですね」中学生の男子生徒が参考書を閉じていう。
「やれやれ全くだ、誰がこんな問題を考えたんだ」男性会社員を装っていた男がいう。
「ただのイケメンじゃなかったのね」ウィッグを外しながら水商売を装っていた女性がいう。
後継者試験で初の合格者だ、天使の笑顔をもつ男の横顔を見ながら男性秘書は思った。