2016年7月3日日曜日

銘柄を明かさない理由R98 勝ち続ける理由

第98話 勝ち続ける理由

休日の昼下がり、調査会社に勤めている男は河川敷に寝転がっていた。
空にはいくつかの雲が流れている。
今日の雲は動きがゆっくりだ。
雲はさまざまに形を変えながら流れていく。

「今日は酔っていないようだな」
声がした方を見ると、トレーニングウェアに身を包んだ女性がいた。
端正な顔立ちには汗が光っている。
「無敗のクイーンさん、今日もトレーニングですか、相変わらずストイックですね」

「ストイックの何が悪い」、無敗のクイーンは男の横に座った。
「悪いとはいってない」、男は雲を目で追いながらいった。
「前から聞きたかったが、きさまにとって大切なことは何だ」、無敗のクイーンが聞く。
聞かれた瞬間、男の脳裏に定食屋の女性店主の笑顔が浮かんだ。

しばらくして男はいった、「世界平和かな」
無敗のクイーンは笑いながらいった。
「世界平和か、どうすれば世界は平和になる」
「それがわかっていれば、世界はとっくに平和になっているよ」、男はいった。

「確かにそうだな」、無敗のクイーンはいった。
「結婚しているのか」、男が聞く。
「何だ、その質問は、きさまはセクハラ親父か」、無敗のクイーンがいう。
「純粋に聞いてみただけだ、結婚していてもおかしくない歳だろう」、男がいう。

「結婚していたら、こんなセクハラ親父の相手などしていない」、無敗のクイーンがいう。
「こんなセクハラ親父の相手するヒマがあったら、早く結婚しろ」、男がいう。
「それがセクハラだということがわからんのか」、無敗のクイーンがいう。
「君にとって大切なこととは何だ」、男が聞く。

「勝ち続けることだ」、無敗のクイーンがいう。
「何のために勝ち続ける」、男が聞く。
無敗のクイーンが驚いた顔で男を見る。
「な、何だ、そんなに驚くような質問をしたか」、男がいう。

「何のために勝ち続けるかだと、負けないために決まっているだろう」
無敗のクイーンは立ち上がると、背筋を伸ばした。
「たまには身体を鍛えろよ」
無敗のクイーンは優雅な笑みを浮かべると、颯爽と走り去った。