2016年7月4日月曜日

銘柄を明かさない理由R99 跡を継ぐ者

第99話 跡を継ぐ者

ある証券会社の会長である巨躯の男の自宅。
書斎のドアがノックされた。
「入れ」、巨躯の男がいう。
入ってきたのは男性秘書だった。

「ご用命の無敗の個人投資家たちがわかりました」、男性秘書がいう。
「ご苦労、で何名いた」、巨躯の男がたずねる。
「最近1年間で売り買いした無敗の個人投資家は全国で94名、全員男性です」
男性秘書がいう。

「少ないな、最も若い独り身の男は誰だ」、巨躯の男がたずねる。
「都内の大学に通う大学生です」、男性秘書がいう。
「そいつに会う手はずを整えろ」、巨躯の男が命ずる。
「かしこまりました」、男性秘書は書斎から退室した。

巨躯の男は生涯、独り身だった。
結婚しようと思えば、相手には困らなかった。
だが、結婚生活には魅力を感じなかった。
1人の女のために生きるなんて、まっぴらごめんだ。

自分の子孫として、今まで3人の子どもを認知している。
それぞれ、別々の3人の女との間にもうけた子どもだ。
先日もある女から、孫が産まれたと連絡があり、祝い金を送っておいた。
女たちへの毎月の送金額は、大手企業の役員クラスにも払えない額だろう。

孫どころか子どもにさえ会っていないし、会いたいとも思わない。
金を出せば、いつでも極上な相手と、とびきりの夜を過ごせる。
自分の子孫は残した。
あとは最後の相場師の跡を継ぐ者を見つけなくてはならない。

自分の子どもたちには到底、無理だ。
母親どもは、金にしか目のない女だ。
そんな母親の子どもだ、ろくな育てられ方をしていないに決まっている。
最後の相場師の跡を継げるわけがない。

最後の相場師の跡を継ぐ者は、男でなければならない。
しかも家庭を持っていない男だ。
なぜなら、家庭を持った男は守りに入ろうとするからだ。
無敗で独り身の男こそが、最後の相場師の跡を継ぐ条件だ、巨躯の男は思った。