2016年8月2日火曜日

銘柄を明かさない理由R111 怪物の実力

第111話 怪物の実力

「ふぅ、問題が簡単すぎたようですね」中学生の男子生徒が参考書を閉じていう。
「やれやれ全くだ、誰がこんな問題を考えたんだ」男性会社員を装っていた男がいう。
「ただのイケメンじゃなかったのね」ウィッグを外しながら水商売を装っていた女性がいう。
後継者試験で初の合格者だ、天使の笑顔をもつ男の横顔を見ながら男性秘書は思った。

やがて、「研究会」は閉会した。
出席者は、後継者の天使の笑顔をもつ男に挨拶をし、会場を後にしていく。
「お手柔らかにお願いしますね」、男性会社員を装っていた男がいう。
「彼女はいるの、いるに決まっているわよね」、水商売を装っていた女性がいう。

巨躯の男と男性秘書は、廊下で出席者を見送っていた。
気づくと会場には、中学生の男子生徒しか残っていなかった。
「まだ帰らないのかい、早く帰らないと両親が心配するよ」
席を立とうとしない男子生徒に、天使の笑顔をもつ男は声をかけた。

「どうして、僕のリターンが事実ではないと思ったんですか」
中学生の男子生徒がいう。
「さっきもいったが、値動きの幅や出来高からしてあり得ないリターンだ」
天使の笑顔をもつ男はいった。

「なるほど、では売買履歴を映しますね」
中学生の男子生徒はいい、スクリーンにあるスライドを映した。
映し出されたのは、男子生徒の報告した銘柄の売買履歴だった。
膨大な数の売買で利益をたたき出しており、1ヶ月の最終リターンは報告どおりだった。

「1回の売買に必要な取引手数料を固定因子とし、条件式を組み込みます。
売買差益が固定因子を上回るよう設定したシステムを走らせます。
あとは学校にいる間も、システムが勝手に最大のリターンを出してくれます」
中学生の男子生徒はいい、スライドを閉じた。

「全員、本当のリターンを報告していたのか」
天使の笑顔をもつ男はいった。
「どうでしょう、中には事実ではない報告する大人もいるかもしれませんね」
中学生の男子生徒はいい、席を立った。

「このシステムに名前はあるのかい」、天使の笑顔をもつ男が聞く。
「さすが後継者ですね、今までシステムの名前を聞いてきたのは先生だけです。
システムの名前はアルキメデス、古代ギリシアの数学者の名前をお借りしています。
あと僕には両親はいないので」、中学生の男子生徒は会場を後にした。