2016年8月4日木曜日

銘柄を明かさない理由R112 You've Got Mail(前編)

第112話 You've Got Mail(前編)

大阪のとある高級マンション。
眼下の景色を眺めながら、淀屋は感慨に耽っていた。
ようやく、初代本家淀屋の時代や。
これからは、初代本家が全国の分家を率いることになる。

一族が所有する土地の評価額は、日本の国家予算に匹敵する。
少子高齢化が進む中、土地の資産価値には期待できへん。
次のターゲットを探すんや、一族にとっての次のターゲット、やはり株か。
そこまで考えたとき、机の上のPCがメールの着信を知らせた。

誰からのメールやろ、淀屋はイスに座るとメールをチェックした。
モップちゃんからのメールやんか。
いつも電話やのに、初めてのメールやな。
淀屋はモップちゃんの連絡先を教えてもらったときのことを思い出した。

大阪に来た3人を贔屓の店で接待し、新大阪駅まで送り届けたときのことだった。
3人は新大阪駅に着くと礼をいい、駅の中に入っていった。
淀屋が運転手に車を出すように命じたときだった。
モップちゃんが、ものすごい勢いで戻ってきた。

「どないしたんや、忘れ物か」、淀屋が車から降りて聞く。
「わ、忘れ物です」、モップちゃんが息を切らせながらいう。
「何を忘れたんや」、淀屋が聞く。
「よ、淀屋さんの、て、手相みるの、忘れてました」、モップちゃんがいう。

「はあ、手相って」、淀屋がいう。
「い、いいから見せてください」、モップちゃんがものすごい勢いで淀屋の手を取る。
モップちゃんは空いている手で、バッグからペンを取り出す。
口でキャップを開けると、淀屋の手にペンで何かを書き出した。

「ちょ、痛い、痛いって、何を書いてんねん」、淀屋が慌てていう。
「運命線です、はい、終わりました」、モップちゃんがいう。
淀屋が手のひらをみると、携帯番号らしい数字が書いてあった。
「連絡待ってます」、モップちゃんは駅の中へ駆けていった。

モップちゃんを見送ると、淀屋は後部座席のドアを開け、車に乗り込んだ。
「車を出してもよろしいでしょうか」、運転手が聞く。
「ペンとメモ用紙くれるか、消えへんうちに控えとかんとな」、淀屋がいう。
「そう仰ると思い、用意しておきました」、運転手はペンとメモ用紙を差し出した。