2016年9月12日月曜日

銘柄を明かさない理由R127 追跡(前編)

第127話 追跡(前編)

都内にある立派な邸宅。
居間には3人の男がいた。
邸宅の主である巨躯の男、巨躯の男に仕える男性秘書。
そして、巨躯の男の後継者と目される天使の笑顔をもつ男だった。

天使の笑顔をもつ男からの報告を聞いた巨躯の男がいった。
「大手外資系証券会社が、相場を作っているのか」
「相場を作っているのは、間違いないと思われます。
株式評論家の推奨する株を買い、株価を操作しています」、天使の笑顔をもつ男が答える。

「ふざけた真似をすると、どういうことになるか思い知らせてやる。
ワシの持てる力、全てを使って叩き潰してやる。
関係各所に指示を出せ、完膚なきまでに叩き潰せ、手段は問わんとな」、巨躯の男がいう。
「かしこまりました」、男性秘書は居間を後にした。

「あることを調べたいので、しばらく留守にします」、天使の笑顔をもつ男がいう。
「どういうことだ」、巨躯の男がたずねる。
「今回、協力してもらった女性から、ある男のことを聞きました。
その男が我々の味方なのか敵なのか、確かめたく思います」、天使の笑顔をもつ男がいう。

「その男は、どこのどいつだ」、巨躯の男がたずねる。
「その男が何者なのかはわかりません。
しかし正体を突き止める価値はありかと思います」、天使の笑顔をもつ男は答えた。
「わかった、その件は任せる」、巨躯の男はいった。

数日後の夕刻、ウィッグの女はあるオフィスビルのカフェにいた。
モデルのようなウィッグの女は、周囲の視線を集めていた。
そのオフィスビルには吹き抜けのアトリウムがあり、世界最高水準のオフィスビルだった。
意識が朦朧とした株式評論家が、読者がいるといったオフィスビル。

今回の黒幕、大手外資系証券会社が入居するオフィスビル。
わたしの推測が正しければ、あの男はこのオフィスビルにいる、ウィッグの女は思った。
そのときエレベーターホールから、年齢不詳の男が現れた。
年齢不詳の男は、ウィッグの女に気づくことなくカフェの横を通り過ぎた。

ウィッグの女は、スーツの襟に仕込んだマイクに話しかけた。
「店に株式評論家を連れてきた男が来たわ、今から追うわ」
ウィッグの女は席を立つと、年齢不詳の男の追跡を開始した。
「ムリはするなよ」、イヤホンから天使の笑顔をもつ男の声が聞こえた。