2016年9月17日土曜日

銘柄を明かさない理由R132 21世紀少年(前編)

「20th Century Boy」 T-REX
Friends say it's fine(友だちがいうんだ、それは素敵だねって)
Friends say it's good(友だちがいうんだ、それはいいねって)
Ev'rybody says it's just like rock'n'roll(皆いうんだ、まるでロックンロールみたいだって)

第132話  21世紀少年(前編)

都内の下町にある古びた木造の一軒家。
「ごちそうさま」、メガネをかけた中学生の男の子は手を合わせた。
「お代わりはいいのかい」、祖母がいう。
「もう、お腹いっぱいだよ、おばあちゃん」、男の子がおどけていう。

「明日は何が食べたい」、祖母が聞く。
「おばあちゃんの手料理」、男の子はそういうと、2階の自室へ駆け上がった。
男の子は祖母と2人暮らしだった。
孫が食べ終わった食器を片付けながら、祖母はあの日のことを思い出していた。

まだ主人が生きていた頃、ある雨の夜に玄関のインターホンが鳴った。
「誰だ、こんな時間に、お前が出て来い」、今は亡き夫がテレビを観ながらいう。
「はいはい、どちらさんですか」、わたしは玄関で返事を待っていた。
しばらくして声が聞こえた。

「お、おばあちゃん、あ、開けて」、聞き覚えのある孫の声がした。
慌てて、玄関の引き戸を開けると、近くに住む娘夫婦の1人息子がいた。
小学生の孫は、傘もなく薄着のまま、雨に打たれて震えていた。
顔には殴られたのか、痣があった。

わたしは自宅の玄関に孫を引き入れた。
「待ってて、タオルを持ってくるから」、孫はうなだれたまま、何もいわなかった。
濡れた体を拭いて、居間に連れて行くと、今は亡き主人がいった。
「何があったんだ、またあの男に暴力を振るわれたのか」

あなた、わかっていたでしょう、夫の遺影を見ながら祖母は思った。
娘が最初の結婚相手と別れて、再婚した相手。
定職に就かず、チャラチャラした敬語の使えない人。
どう見ても、まともな人じゃなかった。

娘が再婚相手を連れてきたとき、あなたはいったわよね、
「俺の娘を幸せにしなかったら、タダじゃおかないからな」
あのとき、この子がどんな顔をしていたか。
覚えていないでしょうね、あなたは孫を大事にしろとはいわなかった。

あの子は、わたしのかわいい孫です。
たとえ親であろうが、孫を傷つける者を決して許しません。
あの子だけが、わたしの生きがい。
わたしは生きている限り、あの子を守り続けます。