2016年9月17日土曜日

銘柄を明かさない理由R133 21世紀少年(中編)

第133話 21世紀少年(中編)

2階の自室で、中学生の男の子はPCを起動させた。
1通のメールが届いていた。
誰からのメールだろう、メール画面を立ち上げた。
メールの贈り主はキングことKだった。

メールの内容は、指令ともいえる内容だった。
男の子は、引き出しから1冊のノートを取り出した。
ノートを開くと、株に関する様々なことが達筆で記されていた。
こんなメールが来たのは初めてだな、メモしながら中学生の男の子は思った。

男の子は小学生のときに、祖父母に引き取られた。
祖父は、母親の再婚相手とは違って優しかった。
退職して家にいた祖父は、よく株の取引をしていた。
ある年の夏休み、祖父はPCの画面を指差しながら、株のことを教えてくれた。

「いいか、ほんの少し頭を使うだけで働かなくても、お金が手に入るんだ」
その夏、祖父は株に関するいろいろなことを教えてくれた。
秋になり、祖父は病気で倒れ、入院した。
病室で最後が近いと思ったのか、祖父は孫にいった。

「机の引き出しに、わしのノートがある。
何もしてやれなかった、お前への餞別だ、ばあさんをよろしくな」
数週間後、祖父は静かに息を引き取った。
祖父の葬儀に、母親の再婚相手の男は来ず、母親はほんの少し顔を見せただけだった。

葬儀が終わって数日度、男の子は祖父の残してくれたノートを読んだ。
取引口座へのログイン方法、株価チャートの読み方などなど。
祖父の取引口座にログインした男の子は目を見張った。
ふだんは目にすることのない金額が表示された。

これだけお金があれば、もっといいところに住めるのに、男の子は思った。
その日の夜、祖母になぜ、引っ越さないのか聞いてみた。
「この家には、いろいろ思い出があるのよ。おじいさんが初めて買ってくれた家だしね」
祖母は懐かしそうにいった。

やがて、男の子は祖父の取引口座を使って、株取引を始めた。
男の子にとって、株はゲームだった。
安く買って、高く売る、安く買えなければ、更に買って安くしてから売る。
祖父名義の取引口座の金額は増え続けた。