2016年9月18日日曜日

銘柄を明かさない理由R134 21世紀少年(後編)

第134話 21世紀少年(後編)

中学生になった男の子は、パソコン部に入部した。
プログラミングの基礎知識を身につけた男の子は、株取引のシステムを作った。
安く買って、高く売る、安く買えなければ、更に買って安くしてから売る。
ふだん、男の子が行なっている取引を自動で行なうシステムだった。

アルキメデスと名づけられたシステムは無敵だった。
株価が下がり一定の条件になる度、買い増す。
ひとたび上昇に転ずれば、決して買うことのないようプログラムされていた。
祖父名義の取引口座の残高は増え続けた。

ある日、祖父のメールアドレスに1通のメールが届いた。
「選ばれた方へ」と始まるそのメールは、ある研究会への招待メールだった。
贈り主は、祖父名義の取引口座のある証券会社だった。
好奇心から、男の子は研究会にいってみることにした。

研究会の会場は、あるホテルだった。
「君、ここは大人の集まる場所だよ」、受付の男にいわれた。
「招待メールをもらったので来ました」、男の子はプリントアウトしたメールを見せた。
「どこで手に入れたのか知らないけど、未成年は入れないよ」、受付の男がいった。

「どうした」、男の子が振り向くと大きな男がいた。
「いや、この男の子が招待されたといっていまして」、受付の男がいう。
「おい小僧、貴様の取引口座名を教えろ」、大きな男が男の子に聞く。
男の子は祖父名義の取引口座名を答えた。

「まさか、あの取引口座が貴様のような小僧のものとはな。
イマドキの小僧は恐ろしいな、いいだろう、研究会への出席を許可する。
呼び名はそうだな、21世紀少年にでもするかな」
大きな男が笑いながらいった。

研究会の大人たちは、僕に優しく接してくれる。
いつもにこやかに学校での出来事を聞いてくれる、受付のおじさん。
会うたびに彼女はできたかと聞いてくる、ウィッグのお姉さん。
舞台のことになると、目をキラキラさせながら熱く語るおじさん。

あの大きなキングこと先生は、どことなく僕の祖父に似ている。
教えてくれるときは常に真剣、でも僕を見る目は優しい。
世の中には、いい大人もいれば、わるい大人もいる。
僕が大人になるときは、あの研究会の大人たちのようになりたい、いや、なってみせる。