2016年9月20日火曜日

銘柄を明かさない理由R136 You spin me round(前編)

第136話 You spin me round(前編)

江戸時代、大阪に淀屋と呼ばれた豪商がいた。
淀屋は、全国の米相場の基準となる米市を設立し、米市で莫大な富を得た。
淀屋の米市で行われた米取引は、世界の先物取引の起源とされている。
やがて淀屋の財力を恐れた幕府により、淀屋は財産を没収された。

だが、あらかじめ暖簾分けをしていたことで、大阪の地での再興に成功する。
幕末になると、淀屋は討幕運動に積極的に加担する。
その後、ほとんどの財産を自ら朝廷に献上して、淀屋は表舞台から姿を消した。
大阪にある淀屋橋は、淀屋に由来していることは広く知られている。

淀屋の一族は、明治、大正、昭和の激動の時代をひっそりと生き抜いてきた。
商才により莫大な富を得た一族は、全国の土地を買い付けた。
今や、淀屋の一族は全国の主要都市に多くの土地を所有していた。
一族が所有する土地の評価額は、日本の国家予算に匹敵するともいわれている。

その日、東京駅のホームに降り立ったのは、淀屋初代本家13代目当主の男だった。
数日前、当主の男はある証券会社の会長から招待状を貰っていた。
会長は業界なら知らんもんはおらへん有名人や、出てこん訳にはいかんやろ。
いきなり顔出したら、モップちゃん驚くやろな、淀屋は改札へと歩き出した。

都内のある証券会社の資産運用を担当するアルカディア。
責任者である無敗のクイーンの内線が鳴った。
社長室秘書から、社長室へお越しくださいとの内線だった。
「社長室へ行ってくる」、無敗のテンに告げ、無敗のクイーンは社長室へ向かった。

何か相場で動きがあったのか、無敗のクイーンは思った。
社長室秘書は無敗のクイーンを見ると、社長室のドアをノックした。
「お見えになりました」、ドアを開け、社長室秘書がいう。
「入れ」、聞き覚えのある声がした。

無敗のクイーンが社長室に入ると、ソファには巨躯の男、会長が座っていた。
ソファの横には社長が直立不動で立っていた。
「遠慮は要らん、座るがいい」、会長がいう。
「失礼します」、無敗のクイーンはソファに座った。

「元気そうだな」と会長がいい、「おかげさまで」、無敗のクイーンが答える。
「資産は順調に増えているようだな」、会長がいう。
「ヒマじゃないので、本題を仰ってもらえますか」、無敗のクイーンがいう。
「か、会長に向かって、その態度はなんだ」、いつもは温厚な社長がいう。