2016年10月17日月曜日

銘柄を明かさない理由R146 神コラムの異変

第146話 神コラムの異変

ある業界紙で「銘柄診断」というコラムが始まった。
毎週、金曜日にこれから騰がりそうな銘柄を紹介するコラムだった。
コラムを書いている筆者の経歴は華やかだった。
破綻した大手証券会社を退職後、外資系証券会社で取締役を勤めた男だった。

今はフリーの株式評論家らしい男の銘柄分析は緻密だった。
ファンダメンタルズとテクニカルをベースにした分析には、説得力があった。
そのコラムには、他のコラムにはない独特の決まり文句があった。
「いつ急騰してもおかしくない株だ、週明け、すぐにでも買うことをお勧めする」

「銘柄診断」が推奨した株は、決まって面白いように上昇した。
いつしか、「銘柄診断」は、神コラムと呼ばれるようになっていた。
ある日のことだった、「銘柄診断」がある株を取り上げた。
その株はいつも推奨する株とは、大きく異なっていた。

大阪難波のタワーマンション。
「銘柄診断」を読んだイケメンの芸人に似た男、淀屋は思った。
その株はあかんやろ、下手したら死人が出んで。
淀屋初代本家13代目当主の男は、不敵な笑みを浮かべた。

その男の主演する舞台はフィナーレを終えた。
楽屋へ戻った男は、「銘柄診断」の推奨株を見て思った。
いよいよ来たか、この相場もらったな。
仮面の相場師と呼ばれる男は、凄みのある笑みを浮べた。

都内の高級マンション。
ウィッグの女は、「銘柄診断」の推奨株も大量に仕込み終えていた。
さあ、相場はどうなるのかしら。
これだから株は止められないわ、ウィッグの女はグラスのワインを飲み干した。

都内の一軒家、中学生の男の子は「銘柄診断」の推奨株を見て思った。
祖父の教えてくれた危険な株、仕手株だ。
仕手株には手を出すなと、祖父は教えてくれた。
でも、今の僕にはアルキメデスがある、男の子はにっこりと微笑んだ。

ある証券会社の資産運用部署、通称アルカディア。
無敗のクイーンは、「銘柄診断」の推奨株を調べていた。
その株は、仕手株として有名な株だった。
面白い、無敗のクイーンは優雅な笑みを浮かべた。