2016年10月24日月曜日

銘柄を明かさない理由R147 ある王の話

第147話 ある王の話

破綻した大手証券会社に勤めていた男、嗤う男が推奨した株。
その株は恐るべき仕手株だった。
嗤う男は、ある業界紙で「銘柄診断」というコラムを執筆していた。
「銘柄診断」は、取り上げた株が急騰することから神コラムと呼ばれていた。

「銘柄診断」で取り上げられたあと、株価は急騰した。
急騰後、しばらくボックス圏、すなわちある株価内で推移した。
やがて、その株は下値を切り上げながら、徐々に株価が上昇していた。
日経平均に関係なく、その株は騰がり続けた。

仕手株には特徴がある。
相場に関係なく、株価が上昇するのである。
仕手株が動意づいたか見抜くには、株価の推移を見ればよい。
相場に関係なく、株価が上昇しているのなら仕手株が動意づいた確率が高い。

都内のタワーマンションの1室。
男は次に主演する舞台の台本を読み終えた。
リア王の悲劇の現代版アレンジか。
男は、若い頃に読んだリア王の話を思い出した。

ブリテンの王であるリアは退位するにあたり、国を3人の娘に分割し与えることにした。
長女ゴネリルと次女リーガンは言葉巧みに父を喜ばせた。
だが、末娘コーディリアの率直な物言いに、立腹したリアはコーディリアを勘当する。
リアは、2人の娘ゴネリルとリーガンを頼るが、裏切られて荒野をさまようことになる。

リアを助けるため、コーディリアはフランス軍とドーバーに上陸、父との再会を果たす。
だがフランス軍は敗れ、リアとコーディリアは捕虜となる。
リアは助け出されるが、コーディリアは獄中で殺されていた。
娘の遺体を抱いて現れたリアは悲しみに絶叫し世を去った。

リア王さん、なぜ1人で生きていこうとしなかった。
娘を頼った時点で終わりだろ。
信じられるのは、己だけだよ。
舞台俳優の男は台本を閉じた。

「銘柄診断」で推奨された株は買いだ。
買って買って買いまくってやる。
やがて、株価が頂点に達したとき、売りに回ってやる。
仮面の相場師と呼ばれる男は、凄みのある笑みを浮かべた。