2016年11月6日日曜日

銘柄を明かさない理由R150 来るべきときの備え

第150話 来るべきときの備え

都内のある証券会社。
情報システムの責任者である男は考えていた。
株は安く買って高く売る、Buy low,Sell highが基本のはずだ。
なぜ、中学生は高く買って、安く売ろうとしているのか。

いくら考えてもわからなかった。
そうだ、あいつに聞いてみよう、男の頭に1人の女性が浮かんだ。
男が勤める証券会社には資産運用を担当する部署がある。
通称アルカディアと呼ばれる部署の責任者は、無敗のクイーンと呼ばれる女性だった。

情報システムの責任者である男は、アルカディアのあるフロアへ向かった。
アルカディアへ着いた男はドアをノックしたが応答がない。
男はそっとドアを開けた。
何だ、こいつら、何をしている、ドアを開けた男は目を見張った。

アルカディアは白を基調とした部屋で、壁面には多くのモニターが埋め込まれている。
1人の女性はインカムを装着し、壁面のモニターに映るゲームをしていた。
シューティングにロールプレイング、モニターのゲームはどれも異なっていた。
同時並行でこれだけのゲームをしているのか、男は呆気にとられた。

責任者の女性、無敗のクイーンは顔の上に新聞を乗せていた。
まさか、この女、寝ているのか。
「何の用だ」、新聞の下から無敗のクイーンの声がした。
「教えて欲しいことがあってきた」、男は慌てて答えた。

「なんだ貴様か、久しぶりだな」、無敗のクイーンは新聞の下から端正な顔を出した。
「教えて欲しいことがある、株を高く買い、安く売るとしたら目的は何だ」、男は聞いた。
無敗のクイーンは優雅な笑みを浮かべるといった。
「簡単だ、株価を釣り上げるためだよ、何かあったのか」

「会長が無敗の個人投資家を育成している噂を聞いたことはあるか」、男がいう。
「ああ、聞いたことはあるが、それがどうした」、無敗のクイーンがいう。
「会長が育成している無敗の個人投資家が、株を高く買い、安く売ろうとしている」
「面白い話だ、詳しく聞かせてもらおうか」、無敗のクイーンが優雅な笑みでいう。

「かまわないが、あの女性社員は何をしているんだ。
勤務中にゲームをしているようにしかみえない」、男がいう。
「最下段のモニターを見てみろ、常に相場の動きが映し出されている。
テンは来るべきときに備え、トレーニングしているに過ぎん」、無敗のクイーンはいった。