2016年11月7日月曜日

銘柄を明かさない理由R151 黙示録の獣

黙示録の獣とは、「ヨハネの黙示録」12章と13章で記される獣である。
「もう1つの印が天に現れた、見よ、火のように赤い大きな竜を。
竜には7つの頭と10本の角があり、頭には7つの冠をかぶっていた」

第151話 黙示録の獣

破綻した大手証券会社に勤めていた男、嗤う男が推奨した株。
その株は恐るべき仕手株だった。
嗤う男は、ある業界紙で「銘柄診断」というコラムを執筆していた。
「銘柄診断」は、取り上げた株が急騰することから神コラムと呼ばれていた。

「銘柄診断」で取り上げられたあと、株価は急騰した。
急騰後、しばらくボックス圏、すなわちある株価内で推移した。
やがて、その株は下値を切り上げながら、徐々に株価が上昇していた。
日経平均に関係なく、その株は騰がり続けた。

「何だ、これは、あり得ない値動きだ」、「どうやら仕手戦が始まったようだな」
やがて、その株の値動きは、市場関係者や個人投資家の多くが知るところとなった。
「この流れに乗らない手はない、儲けてやる」
多くの市場関係者や個人投資家が仕手戦に参戦した。

その仕手戦を仕掛けたのは、外資系の大手証券会社だった。
「東京証券取引所ほど、美味しい相場はない。
日本のサルたちは、儲かりそうな情報にすぐに飛びつく。
サルたちがこの株に群がったとき、一気に売らせてもらう」

主演する舞台を終えた舞台俳優の男は、楽屋で取引画面にログインした。
今日の買い注文も約定している、このまま買い続けてやる。
舞台俳優の男、仮面の相場師はその株を買い上がっていた。
その株は嗤う男が推奨したときから、株価が数倍になっていた。

株にはBPS(1株当たり純資産)という指標がある。
本来の株価の定価は、BPSである。
BPSの計算式は、純資産÷発行済み株式数である。
BPSが高いほど、その企業の安定性は高いことになる。

BPSを現在の株価で割ったものが、PBR(株価純資産倍率)である。
BPSを現在の株価で割ったPBRが、1倍未満であれば割安。
BPSを現在の株価で割ったPBRが、1倍以上であれば割高となる。
今や、その株はPBR1倍をはるかに上回り、更に騰がり続けていた。

都内のワンルームマンション。
男が勤務する大手外資系証券会社の社章は赤い竜だった。
いよいよ、赤い大きな竜と国内相場師たちとの戦いが始まったか。
年齢不詳の男、ジョーカーは自室で静かにグラスを傾けた。