黙示録の獣とは、「ヨハネの黙示録」12章と13章で記される獣である。
「もう1つの印が天に現れた、見よ、火のように赤い大きな竜を。
竜には7つの頭と10本の角があり、頭には7つの冠をかぶっていた」
第151話 黙示録の獣
破綻した大手証券会社に勤めていた男、嗤う男が推奨した株。
その株は恐るべき仕手株だった。
嗤う男は、ある業界紙で「銘柄診断」というコラムを執筆していた。
「銘柄診断」は、取り上げた株が急騰することから神コラムと呼ばれていた。
「銘柄診断」で取り上げられたあと、株価は急騰した。
急騰後、しばらくボックス圏、すなわちある株価内で推移した。
やがて、その株は下値を切り上げながら、徐々に株価が上昇していた。
日経平均に関係なく、その株は騰がり続けた。
「何だ、これは、あり得ない値動きだ」、「どうやら仕手戦が始まったようだな」
やがて、その株の値動きは、市場関係者や個人投資家の多くが知るところとなった。
「この流れに乗らない手はない、儲けてやる」
多くの市場関係者や個人投資家が仕手戦に参戦した。
その仕手戦を仕掛けたのは、外資系の大手証券会社だった。
「東京証券取引所ほど、美味しい相場はない。
日本のサルたちは、儲かりそうな情報にすぐに飛びつく。
サルたちがこの株に群がったとき、一気に売らせてもらう」
主演する舞台を終えた舞台俳優の男は、楽屋で取引画面にログインした。
今日の買い注文も約定している、このまま買い続けてやる。
舞台俳優の男、仮面の相場師はその株を買い上がっていた。
その株は嗤う男が推奨したときから、株価が数倍になっていた。
株にはBPS(1株当たり純資産)という指標がある。
本来の株価の定価は、BPSである。
BPSの計算式は、純資産÷発行済み株式数である。
BPSが高いほど、その企業の安定性は高いことになる。
BPSを現在の株価で割ったものが、PBR(株価純資産倍率)である。
BPSを現在の株価で割ったPBRが、1倍未満であれば割安。
BPSを現在の株価で割ったPBRが、1倍以上であれば割高となる。
今や、その株はPBR1倍をはるかに上回り、更に騰がり続けていた。
都内のワンルームマンション。
男が勤務する大手外資系証券会社の社章は赤い竜だった。
いよいよ、赤い大きな竜と国内相場師たちとの戦いが始まったか。
年齢不詳の男、ジョーカーは自室で静かにグラスを傾けた。