2016年11月8日火曜日

銘柄を明かさない理由R152 上昇相場と金の亡者たち

第152話 上昇相場と金の亡者たち

大手外資系証券会社が仕掛けた仕手戦。
今や短期筋、いわゆるデイトレーダーたちの格好の標的だった。
前場で買って後場で売れば、必ず儲かる株。
多くのデイトレーダーが、その株を売り買いしていた。

「今日一日で大台越えますたwww」
「信用取引口座開設完了!明日から本格参戦www」
「真面目に働いている奴ら、ごくろうさんwww」
ネットの掲示板には、狂喜乱舞するデイトレーダーたちのカキコミが溢れた。

ある大学生は授業には出ず、その株をトレードしていた。
俺って株の才能あったんだな、笑いがとまんね、試験の日も大学生はトレードしていた。
ある会社員はマイホームの購入資金の一部で、その株を売り買いしていた。
うまく儲けられれば、住宅ローンを組まずにすむかもしれない、会社員は笑みを浮かべた。

ある主婦は子供の教育費用に貯めた金の一部で、その株を売り買いしていた。
ここで増やせたら、節約しなくてもすむわ、主婦の心は躍っていた。
ある高齢者は退職金の一部で、その株を買い保有していた。
これで老後が少しは楽になるな、増えていく評価額を見て高齢者はほくそ笑んだ。

初心者が最も陥りやすいのが、株の上昇過程での売り買いである。
株の上昇過程では買って売りさえすれば、誰でも利益を出すことができる。
だが株の基本は、安く買って高く売る(Buy low,Sell high)である。
上昇過程での売り買いは、高く買って高く売る(Buy high,Sell high)行為に他ならない。

上昇過程で売り買いしていると起こるのが、金銭感覚の麻痺である。
1日で数万円、数十万円単位で取引口座の金が増えていく。
やがて、数万円、数十万円単位で、ためらわず株を売り買いするようになる。
日常生活では、決してしない金額での売り買いをするようになるのである。

次に訪れるのが、株式投資に対する過信である。
上昇過程だから利益が出ているにも関わらず、自分には才能があると思い出す。
過信の恐ろしいのは、根拠のない楽観を生むことである。
株価が下がっても一時的な下げだと思い、仕手戦での逃げどきを失うことになる。

大阪難波のタワーマンション。
淀屋初代本家13代目当主の男は様子見だった。
ワテの得意とするのは売りや、今は買いが優勢やから様子見や。
買い方は今のうちに儲けときや、淀屋は不敵な笑みを浮かべた。