2016年11月14日月曜日

銘柄を明かさない理由R155 証券会社のレゾンデートル

第155話 証券会社のレゾンデートル

都内のある証券会社の社長室。
社長は若い頃に勤めていた破綻した大手証券会社の回想に耽っていた。
「いいか、客の顔を見たら金だと思え。
ウチを儲けさせてくれるのが、いいお客様だ」、当時の上司がいう。

自社の利益だけの為に、客が儲かることのない商品を勧める。
儲からないことに客が気づいたときには、担当者を交替させる。
「前任者は異動になりました、ちょうどよかったお客様、こちらの商品はいかがですか」
「お客様は生かさぬように殺さぬようにだよ」、当時の上司のにやけた顔が甦る。

そこまで回想したとき、社長室のドアがノックされ、社長室秘書が顔を出した。
「お見えになりました」、社長室秘書がいう。
「通せ」と社長がいい、秘書が「かしこまりました」と下がる。
社長室に入ってきたのは、情報システムの責任者の男だった。

「何だね、急な話とは」、デスクに座った社長が問う。
「会長が無敗の個人投資家を育成していることはご存知ですよね。
その無敗の個人投資家から、ある情報を入手しました」情報システムの責任者の男がいう。
「知っているよ、大手の外資系証券会社が仕手戦を仕掛けているんだろ」社長がいう。

「情報をくれた無敗の個人投資家は、あるプログラムを作っています。
そのプログラムを使えば仕手戦に勝つことができます」情報システムの責任者の男がいう。
「面白い話だな、アルカディアの連中に教えてやってくれ。
彼女たちなら興味を示すだろう」社長がいう。

「アルカディアは社の資産運用部署で、運用額には限度があります。
顧客からの預かり資産を使って、勝負に出るのです」情報システムの責任者の男がいう。
「我が社は顧客の資産運用を手助けし、お礼として手数料をいただいているんだ。
仕手戦に大事な顧客からの預かり資産は出せない」社長がいう。

「もし大手外資系証券会社、赤い竜の会社が仕手戦に勝利すればどうなります。
多くの個人投資家を救うためにも、我が社は総力を挙げて挑むべきです。
それこそが我が社の存在理由、レゾンデートルではありませんか」
情報システムの責任者の男がいい、社長室は静まり返った。

「具体的にどうするつもりだ」社長が問う。
「無敗の個人投資家のサーバーと当社のサーバーを専用回線で直結します。
あとは無敗の個人投資家がプログラムを走らせるときを待つだけです」
社長室の中は再び静まり返った。