2016年11月21日月曜日

銘柄を明かさない理由R161 反撃の嚆矢

天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが竜たちに戦いを挑んだのである。
竜たちも応戦したが勝つことはできなかった。もはや天には彼らの居場所はなくなった。
(「ヨハネの黙示録」より)

第161話 反撃の嚆矢

早朝のアルカディア。
ついに来たか、無敗のクイーンは無敗の個人投資家の仕手株への買い注文を確認した。
通勤中のアルカディアメンバーに向けて、社長室秘書から召集メールが発信された。
「始業前にアルカディアへお集まりください」

始業時間になり、アルカディアでは朝のミーティングが行われていた。
無敗のクイーンが、無敗の天然ことテンを含むメンバーにいう。
「お前たちは選ばれし者だ、自分たちが社内、業界、いや世界で一番、偉いと思え。
お前たちに勝てる奴など、この世に存在しない、本日中に必ず目標を達成しろ」

東京証券取引所の取引開始時間まで、残り数分だった。
無敗の天然ことテンは、席に着くとインカムを装着した。
あっ、そうだ、淀屋さんに連絡するの忘れるとこだった。
テンは、浪花の相場師こと淀屋初代本家13代目当主の男にLINEを送信した。

大阪難波のタワーマンション。
浪花の相場師こと淀屋は、アルカディアのテンと交際していた。
淀屋は、今回の仕手戦でアルカディアが買いに入ったら連絡するようテンに頼んでいた。
いよいよ反撃開始やな、テンからのLINEを読んだ淀屋は思った。

淀屋は仕手株が天井をつけてから、売り方で参戦していた。
すでに淀屋の含み益は莫大な額になっていた。
他の売り方はんも早よ買い戻さな、関東の別嬪さんたちに踏み上げられんで。
淀屋は不敵な笑みを浮かべると、買い戻しに取り掛かった。

都内の大手外資系証券会社、赤い竜の会社のトレーディングルーム。
「た、大変です、開始早々、買いが殺到しています」部下のトレーダーが叫ぶ。
「慌てるな、たいした買いじゃないだろう」責任者の男がいう。
な、何だ、この買いは、取引画面を見た責任者の男は言葉を失った。

仕手株のその日の取引は、前日終値で始まった。
開始早々に大口の買い注文が繰り返し入り、株価は大きく値を騰げていた。
抵抗するような大口の売り注文が何度か出たが、瞬時に買い上げられた。
前場が終了した時点で、仕手株はストップ高に貼りついていた。

都内にある劇場の楽屋。
午前中の公演を終えた舞台俳優の男は、ストップ高になった株価を見て絶句した。
舞台俳優の男、仮面の相場師は株価が天井をつけてから売り方に回っていた。
早く買い戻さないと踏み上げられる、仮面の相場師は慌てて成行買いを入れた。