2016年11月22日火曜日

銘柄を明かさない理由R162 相場の長い一日

第162話 相場の長い一日

都内の吹き抜けのアトリウムがあるオフィスビルの1室。
その部屋には大手外資系証券会社、赤い竜の会社の幹部たちがいた。
円卓に座った幹部たちは、仕手株が前場にストップ高になった報告を聞いていた。
年齢不詳の男が報告する。

「各社に問い合わせましたが、1社を除き、いずれも関与していないとのことです。
無敗のキングが会長の証券会社だけは、ノーコメントでした。
しかし、その会社が首謀者だとしても、これだけの出来高になる訳がありません。
おそらく追随した者がいると思われます」年齢不詳の男がいう。

「下がってよい、また情勢に変化があれば報告しろ」
円卓の左側に座った男が無表情にいう。
「かしこまりました」
年齢不詳の男ことジョーカーは退室すると、口元に笑みを浮かべた。

「いかがなさいます」
円卓の右側に座った男が、中央奥に座った男に聞く。
「サルの分際で我々に歯向かうとは、こうなったら総力戦だ」
円卓の中央奥に座った男は、内線を取るとトレーディングルームへ指示を出した。

赤い竜の会社のトレーディングルームでは、責任者の男が部下たちに指示を伝えていた。
「幹部からの指示を伝える、終値のストップ高は何としても回避せよとのことだ。
ここまでの売りで資金が限られているため、各自の売り注文を禁止する。
大引け成行売りで、ストップ高での終値は阻止する」

首都高を走る黒塗りの高級車。
「どうやら、あの女と淀屋氏が動いたようだな」ストップ高を見た無敗のキングがいう。
「ここまでの売りで、敵の資金はそんなに多く残っていないはずです」
隣に座る天使の笑顔をもつ男がいう。

「祝いを贈るとするか、大引け成行買いを入れておいてくれ」無敗のキングがいう。
「かしこまりました、いかほど入れますか」天使の笑顔をもつ男がいう。
「任せる、盛大に祝ってやってくれ」無敗のキングがいう。
「かしこまりました」天使の笑顔をもつ男がいい、ノートPCを開いた。

大手外資系証券会社、赤い竜の会社のトレーディングルーム。
責任者の男は、モニターのストップ高になった株価を見ていた。
もうすぐ後場が終わるが、大引け成行売りでストップ高は阻止できるはずだ。
やがて後場が終わったが、その日の取引終値はストップ高だった。