2016年11月23日水曜日

銘柄を明かさない理由R164 アルカディア史上最大の危機

第164話 アルカディア史上最大の危機

その日、アルカディアはいつものように取引開始時間を待っていた。
取引開始時間になり、モニターを見たテンは固まった。
「な、何、この売り、こんな売りって、ありえない」
モニターにはアルカディアの運用額を凌駕する売り注文が並んでいた。

「どうした」テンの異変に気づいた無敗のクイーンが声をかける。
「リ、リーダー、わたし、こんなの相手にできません」テンが声を上げて泣き始めた。
「全く困ったら、すぐに泣く奴だな」無敗のクイーンはテンのモニターを見た。
確かにテンが泣くのもわかる売り注文だ、無敗のクイーンは思った。

子どものように声を上げて泣き続けるテン。
他のアルカディアメンバーが、テンを慰めている。
「テンさん、泣かないでください」、「わたしたちはテンさんだけが頼りなんです」
慰められることにより感情が高まったテンは、一向に泣き止みそうになかった。

無敗のクイーンは内線を取り上げ、情報システムの責任者の男を呼び出した。
内線が繋がると、無敗のクイーンはいった。
「私だ、アルカディア史上最大の危機だ。
貴様が前に話してくれたプランの発動をお願いする」

「承知した」
情報システムの責任者の男はいうと内線を終えた。
我が社の総力を挙げて、この仕手戦に打ち勝ってやる。
情報システムの責任者の男は、準備に取り掛かった。

情報システムの責任者の男は、先日の社長室での会話を思い返していた。
「もし大手外資系証券会社、赤い竜の会社が仕手戦に勝利すればどうなります。
多くの個人投資家を救うためにも、我が社は総力を挙げて挑むべきです。
それこそが我が社の存在理由、レゾンデートルではありませんか」

「具体的にどうするつもりだ」社長が問う。
「無敗の個人投資家のサーバーと当社のサーバーを専用回線で直結します。
あとは無敗の個人投資家がプログラムを走らせるときを待つだけです」
沈黙の後、社長はいってくれた「いいだろう、我々のレゾンデートルを見せてやれ」

お待たせした、準備完了だ、いつでもいいぞ、天才少年。
情報システムの男は、21世紀少年と呼ばれる無敗の個人投資家へメールを送信した。
最後に出すから切り札なんだよね、さあアルキメデス、いよいよ出番だよ。
休み時間にメールを確認した中学生の男の子は、遠隔操作でプログラムを走らせた。