2016年11月24日木曜日

銘柄を明かさない理由R165 舞い降りた天使

わたしは、1人の天使が底なし淵の鍵と大きな鎖を手に、天から降ってくるのを見た。
この天使は竜を取り押さえて縛ると、底なし淵へ投げ入れ鍵をかけて封印した。
(「ヨハネの黙示録」より)

第165話 舞い降りた天使

お待たせした、準備完了だ、いつでもいいぞ、天才少年。
情報システムの男は、21世紀少年と呼ばれる無敗の個人投資家へメールを送信した。
最後に出すから切り札なんだよね、さあアルキメデス、いよいよ出番だよ。
休み時間にメールを確認した中学生の男の子は、遠隔操作でプログラムを走らせた。

少年は自作した売買プログラム、アルキメデスにあるロジックを追加していた。
通常のアルキメデスは、株は安く買って高く売る、Buy low,Sell highだった。
追加したアルキメデスのロジックは真逆だった。
株を高く買って安く売る、Buy high,Sell lowだったのである。

株を1,000円で買い、900円で売る。
普通であれば、誰もそのような取引はしない。
なぜなら取引を繰り返せば、損失が膨らんでいくだけだからである。
だが確実に株価が騰がるため、売り方を追い詰めることができるプログラムだった。

アルキメデスは直結された証券会社のサーバーに入った。
運用可能額を確認したアルキメデスは、すぐさま売り注文の大半を買い付けた。
アルキメデスが買い付けた株価より低い売り注文を出すと、瞬時に全てが約定した。
アルキメデスは更に高い売り注文の大半を買い付けた。

大手外資系証券会社、赤い竜の会社のトレーディングルーム。
何だ、この怒涛の買いは、この売りに買い向かってくるとは何を考えているんだ。
下手すると、きさまたちの会社が潰れるかもしれないんだぞ。
責任者の男は、今まで見たこともない怒涛の買いに恐怖を覚えた。

「株価の上昇が止まりません」、「含み損が膨れ上がっています」
部下のトレーダーたちから、悲鳴に近い声が上がる。
「う、うろたえるな、売りだ、売って売って売りまくれ」
責任者の男は部下のトレーダーたちに吼えた。

コンピュータのプログラムは感情を持ち合わせていない。
アルキメデスは、株を高く買って安く売る、Buy high,Sell lowを繰り返した。
やがて、赤い竜の会社のトレード資金が尽きた。
その日の株の終値は、ストップ高になっていた。

大手外資系証券会社、赤い竜の会社のトレーディングルーム。
ストップ高となった株価に呆然とする責任者の男に幹部から内線が入った。
本国から新たに資金面での支援はないとのことだった。
責任者の男は内線を手にしたまま、膝から崩れ落ちた。