2016年11月27日日曜日

銘柄を明かさない理由R169 中学生日記

第169話 中学生日記

都内の下町にある古びた木造の一軒家。
「ごちそうさま」、メガネをかけた中学生の男の子は手を合わせた。
「またニンジンとピーマン残してる、食べなさい」、母親がいう。
「もう、お腹いっぱい」、男の子はそういうと、2階の自室へ駆け上がった。

「本当、あの子ったら好き嫌いが多くて」、母親は後片付けを始めた。
娘である母親が戻ってきてから、孫の食事は娘が作るようになった。
祖母は孫が好き嫌いが多いことを初めて知った。
祖母と2人暮らししていた頃、孫は祖母の料理を残さなかった。

「お母さん、大変だったでしょう、あの子の食事」、娘である母親がいう。
「そうでもなかったよ」、祖母が日本茶を飲みながらいう。
「本当に誰に似たのかしら、好き嫌いが多くて困っちゃうわ」、娘である母親がいう。
祖母は笑いそうになるのをガマンした。

娘も孫くらいの頃は、好き嫌いが多かった。
「何で、ニンジンやピーマン入れるのよ」、夕食を見た娘によく怒られた。
今、思えば、孫は私に気をつかって、残さず食べてくれていたんだわ。
やはり、母親が一番、気をつかわなくていいのかもしれない、祖母は思った。

数日後、都内にあるホテルの会議室。
無敗の相場師キングによる個人投資家を対象にした研究会が行なわれようとしていた。
「先日の仕手戦では、踏み上げられそうになって焦ったよ」、舞台俳優の男がいう。
「舞台俳優は大変ね、取引時間中に仕事だもんね」、ウィッグの女がいう。

「ところで21世紀少年はまだか、もうすぐ始まるぞ」、舞台俳優の男がいう。
「今まで遅刻したことないのに、おかしいわね」、ウィッグの女がいう。
ウィッグの女は、母親に21世紀少年と一緒に暮らして欲しいと頼んでいた。
何かよくないことがあったのかしら、ウィッグの女は思った。

開始時刻になり、受付の男が入口を閉める。
壇上に巨躯の男、無敗の相場師キングが現れていった。
「時間になったので、研究会を始める。
先ずは、先日の仕手戦で大いなる戦果を収めた相場師の講義から始める」

壇上に21世紀少年と呼ばれるメガネをかけた中学生の男の子が現れた。
男の子は居並ぶ大人たちを見回すと、にっこりと笑ってから講義を始めた。
「みなさんご存知のように、株は安く買って高く売れといわれています。
ウォール街の相場格言にあるBuy low,Sell highです」男の子の講義は続いた。