2016年11月28日月曜日

銘柄を明かさない理由R170 天使の決断

第170話 天使の決断

都内にある邸宅。
居間には巨躯の男、無敗の相場師キングと天使の笑顔をもつ男の2人きりだった。
「何だ、話というのは」無敗の相場師キングがいう。
「考えるところがあって、アメリカへ行こうと思います」天使の笑顔をもつ男がいう。

「理由は」無敗の相場師キングがいう。
「先日の仕手戦、21世紀少年が考えた株を高く買って安く売る。
肉を斬らせて骨を断つ戦法、自分には思いつきもしませんでした。
修行を兼ねて、ウォール街で相場を張ることに決めました」天使の笑顔をもつ男がいう。

「最後の相場師の後継者になりたくないのか」無敗の相場師キングがいう。
「今だかって、ウォール街で成功した日本人相場師はいません。
申し訳ありませんが、後継者の話はなかったことにしていただけますか」
天使の笑顔をもつ男がいう。

2人の相場師の間に、静かな時間が流れた。
「よかろう、後継者の話はなかったことにしてやる。
米国に口座が開設できたら知らせろ、ワシの資金を移動してやる、必ず増やせ。
これから貴様は後継者ではない、ワシの投資先だ」無敗の相場師キングはいった。

数日後、都内にある調査会社。
男は定時になるのを待っていた。
「さっきから時計ばかり見てますけど、何か予定があるんですか」女性社員が聞く。
「約束があるんだ、おっ定時になった、お先に」男は退社した。

数日前、天使のような笑顔をもつ男からメールが届いた。
アメリカへ行くことになり、行く前にお会いしたいという内容だった。
調査会社の男は地下鉄を乗り継ぎ、待合せ場所の兜神社へ急いだ。
駅へ向かう会社員やOLの間を抜け、調査会社の男は足早に兜神社へ向かった。

暗がりの境内には、ダウンジャケット姿の1人の若者がいた。
若者は振り向くと、天使のような笑顔でいった。
「ご無沙汰しています、お元気そうで何よりです。
ひさしぶりに、あの定食屋へ連れていってもらえませんか」

「構わないが、願掛けは終わったのかい」調査会社の男がいう。
「あっ、忘れていました」天使の笑顔をもつ男がいう。
「おいおい、アメリカに兜神社はないぞ、さあ2人で願掛けだ」
2人の相場師は賽銭を投じると、証券界の守り神に祈った。